パンパを走る夜行列車


 アルゼンチンの長距離列車は決して多くないのですが、ブエノスアイレスに複数あるでかい駅舎がそびえるターミナル駅から出て行く様子は鉄道黄金時代の凄さを感じさせてくれます。そのうちの一つ、ブエノスアイレスから南西に600kmほどのところにあるバイアブランカ(Bahia Blanca)に行き夜行列車に乗ってみることにしました。


 バイアブランカ行きなどブエノスアイレスから南に向かう長距離列車のターミナルはコンスティトゥシオン駅(Constitucion)です。この駅は近郊列車ポルトガルからの中古気動車に乗るときにも利用しました。長距離列車のホームは駅に入って左の端にあり、改札は近郊列車と別になっています。発車時間や行き先札がくっついたアナログな番線表示がなかなかオシャレですが客車はかなりくたびれている感じです。

 ホームの端までこれから長時間お世話になる機関車を見に行きがてら編成を見ると機関車+Pullman2両+食堂車+Primera2両+Turista3両の順に連なっていました。


 ちょっとカワイイ食堂車の食材を輸送するためのカゴを見たら車内の様子を見ていきます。私の切符は3等級あるうち最下位のTuristaクラスです。別にケチったり逆に何かこだわりがあったというわけではなく出発前日にコンスティトゥシオン駅の窓口に行ったら上2クラスが売り切れだったため選ぶ余地がありませんでした。

 このTuristaクラスの座席は近郊列車でも見かけた2列+3列の転換クロスシートで、運が悪いことに私の席は3列の真ん中という最悪の位置でした。夜を過ごすのに両脇が埋まっていては狭くてかないません。発車して検札が終わった後に前後の車両を歩き回ったところ3列席が丸々空いていたので移ると幸い終着まで他の乗客が来なかったので一応横になることができました。

 上位2クラスの画像も付け加えておきます。左下が2等のPrimera、右下が1等のPullmanです。座席の大きさ自体はさほど差がないように感じましたがPullmanは冷房つきでキレイ、Primeraは冷房なしでボロめという差はあります。客層は見る限り3等級ともそれほど差は感じなかったので快適な上のクラスから売れていくという感じなのかもしれません。運賃は上から66・50・40ペソという具合でアコモの差ほど差をつけていないように思われます。

 バカンスシーズンらしくどのクラスの車両もこれから遊びに行くという雰囲気の家族連れや若者のグループが目立ちました。退屈するとギター弾いたり太鼓叩いて歌い出すという具合でにぎやかかつ和やかなムードの文字通り鳴り物入りの旅行と相成ります。

 発車は19:45なので車窓はすぐに暗くなります。客室内は室内灯がついていなかったり、ついていても非常に暗かったりなので何か読むとかトランプなどのゲームはしづらく音楽に向かうのは自然かもしれません。外を見るとこちらと同じ行先のバイアブランカと書かれた2階建て長距離バスが長いこと併走していました。


 暗い車窓に飽きたらぼちぼち夕食でもと食堂車に向かいます。どんなメニューかとわくわくしていったらサンドイッチしかないというのでちょっとがっかりしました。それでもアルゼンチンでポピュラーなミラネーサ(牛カツ)が挟まった大きなサンドイッチをほおばり温かいコーヒーにもありつけ機嫌が直ります。


 腹がくちたら眠くなっておやすみなさい、になりますが、前述の通り3列席を占領して横にはなれたものの窓ガラスにはヒビが入り床には穴が開いていて地面がのぞくという有様ではなかなか安眠とはいきません。1月は夏の南米とは言え夜はすきま風で冷え、あまり用意してきていない乏しい上着を重ね着しやるせない一晩になってしまいました。毛布を持参してかぶっている人も目に入るとうらやましくなります。

 真夜中には突然ガッチャーン!とガラスが飛び散る音がするので列車テロか、と思ったら投石でした。(画像は翌朝撮影)訪問時アルゼンチンの鉄道では窓に金網などは張られていませんでしたがこれでは将来張られる事態もあり得るのではないかと心配になります。そんなこんなでせっかくの半寝台状態でもあまり落ち着いて眠れずうつらうつらで夜が明けてしまいました。

 明けて車窓が見えるようになるのはいいのですが、何せ大草原パンパを行く大陸の列車だけに雄大、あるいは大味な景色です。島国根性丸出しでちまちましたものを好む当方はややもてあまし人間のスケールの小ささを改めて自覚しました。そんな中草原の真ん中にある通過駅で見る長い貨物列車との交換は楽しいアクセントになります。

 扉の丸い窓はガラスは嵌っていないことが多く、洗面所も水が出なかったりで客車の整備が追いついていない様子でした。

 そのうちいくらか小味のきいた景色になってほっとしているとぼつぼつ停車駅で降りる客が目立つようになります。そういえば車内・駅構内共アナウンスや発車ベルは全くありませんでしたが手動扉だと最悪飛び乗り飛び降りもできるのでさほど不安はありません。

 線路際に生えた木や草にはかなり寛容なようです。こんな形になってしまった木はちょっとお気の毒だけど元気なものですね。


 郊外の貨物駅を過ぎ町に入ったらバイアブランカ駅に到着です。640kmの長距離を走るにも関わらず9:50に定時到着でした。長距離列車の終着駅に漂うほっとした空気というのはなかなかいいものです。

 列車の本数が少ないためかバイアブランカ駅前には店などがなく栄えていません。少ないながらタクシーが停まっていて着いた乗客が乗り込んでいました。また客車や蒸機が保存されていて外から眺めることができます。


(2010年訪問)


景色は乗った後に(表紙)アルゼンチンもくじ>このページ

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