ベルギー〜フランス国境越え廃線跡乗り継ぎ


 前編後編と続けたトロワバレー蒸気鉄道(CFV3V)の話のさらにオマケ的な続きです。後編で触れたようにCFV3Vの東端Treignes駅からフランス国境までは2km弱、廃止された国境越え区間の先にあるフランス側の旧接続駅Vireux Molhainまでは国境からさらに約2km、つまり駅間だと約4km離れています。廃線区間に併走して国境を越える路線バスはないものの4kmくらいなら歩いても大したことはなさそうですし、地図を見るとずっとCFV3Vと並行して流れるViroin川沿いに下る道ですからいよいよ楽そうです。というわけで廃線跡の見物がてらフランスに抜けて乗り継ぐことにしました。


 まず簡単な路線図を貼るのでご覧下さい。話は戻りますが前編のMariembourgの車庫でCFV3Vの切符を買うときに終端のTreignesまで往復ではなく片道と言ったら係の方に怪訝な顔をされました。運賃は往復で買うと片道より大幅に割引になり、Treignesを通る路線バスの便数は少なくバスでどこかに出るというのも考えにくいので「どこに行くの?」と念を押されるのも無理はないのですが、そんなやりとりがあったくらいCFV3Vでフランス側に抜ける人は少なそうです。

 ではTreignes駅から歩き始めます。小さい画像の左上は駅前の様子です。営業している様子がないレストランが一軒とバス停があるくらいで閑散としていました。Treignesの集落の中心は駅の西にありこの駅ははずれた場所であるうえ、そもそも「保存鉄道の」駅であって既に公共交通の駅ではありませんから仕方ないのでしょう。線路跡は歩けないようなのでちょっと離れて併走するフランスに向かう田舎道を東に歩いていきます。ベルギー側最後の集落がNajauge(小さい画像右下)で、バスの少ない国境地域となればよほどの田舎かと思ったら結構建物があり意外でした。


 Najaugeの集落の東端が国境です。左の大きい画像はベルギー側から東のフランス側を向いたもので、右側(南側)に停まっているトラックの先頭付近で国境が道路を横断しています。ここは左側(北側)からの道とぶつかるT字路になっていて、小さい画像のうち左下が「T字の下棒」にあたる北を向いた画像です。この下棒道が国境になって民家が向かい合っているためお向かいさん同士は外国になります。といっても行き来はシェンゲン協定で自由ですし、どちらもフランス語圏で通貨も同じユーロとなれば日本だと県境くらいの感覚でしょうか。


 フランスに入ってもそう雰囲気は変わらない道を歩いていきます。途中何ヶ所か昔線路があった場所を見てみたのですが、もう線路はなく建物が建っていたりで跡はあまり残っていないようでした。やがて現役のフランス鉄道(SNCF)の枝線(Charleville Mezieres〜Givetの非電化複線)にぶつかります。この付近ではViroin川にかかる鉄橋の跡(左の画像の奥の橋)が残っているのは見えたものの、ベルギー側に路線が分岐していた場所を見るとポイントなどはもうなく現役の立派な複線(小さい画像左上)があるばかりです。ベルギーに分岐していたのはもうすっかり過去なのでしょう。

 なおこの分岐地点は川の合流地点(小さい画像右上)でもあり、Viroin川とムーズ(Meuse)川がぶつかっています。ムーズ川(オランダ語はマース/Maas川)はこの先北に流れベルギーを通ってオランダのドルドレヒトやロッテルダムを経て北海に流れ込むスケールの大きな川ですがそこで船に乗ったときはこんなところから来る川だとは想像もしていませんでした。大陸では川が外国から来るなんてごく当たり前にしても島国で暮らしているとなんだかピンときません。

 鉄道と川の合流地点のすぐ南にはVireux Molhain駅(小さい画像の下2枚)があります。さすが元ベルギーへの分岐駅だけあり構内の敷地は広いのですが側線「跡」と化し草むらが見えるばかりでした。ここでSNCFの新しい気動車に乗り北に向かいます。


 Vireux Molhainからはムーズ川沿いを下流に向かう乗り鉄です。右手には川面と牧歌的な風景が広がり、と思ったらなにやら物騒な施設が目に入りました。これはショー(Chooz)原発です。空冷の原発なので冷却塔が目立っています。原発はあるけど近くの鉄道は電化されていないという状況は日本でもよくあるなあとふと思い出す一方、日本の原発は水冷で海岸線に立地していますからここのような内陸部で出てくると妙な気がしました。

 こんな国境ギリギリだともし事故ったら数キロしか離れていないベルギーはおろか上記の通り「スケールの大きい」ムーズ川に汚染物質が流れオランダまで「もらい事故」になりそうです。まあ下流であるとか世界有数の原発大国フランスに対し数が圧倒的に少ないという不公平さはあるにせよベルギーやオランダも原発を持っていますからそこはお互い様なのかもしれませんが。


 Vireux Molhainからわずか十数分で終点のジヴェ(Givet)に到着です。ここはフランス側からの枝線の末端ですがかつてはムーズ川に沿って国境を越えベルギーのディナン(Dinant)まで列車が運行されていました。この廃止区間は1989年に一般列車の運行が廃止されたあとも1990年からCFV3Vが保存鉄道として列車を運行していたそうなのですが、2000年にはその保存運行も終わり完全な廃線になっています。この廃止区間に併走するバス路線があるので乗ってみることにしました。運行はベルギー側のTECのバスがフランスに乗り入れる形態で国際路線バスということになります。バス停はジヴェ駅を出た目の前つまり駅舎にバスが横付けですから迷うことはありませんでした。


 ジヴェの町はムーズ川の両岸にまたがっています。西岸にある駅を出ると橋を渡って東岸に出てから北上し、町外れで国境(画像左から2枚目)を越えベルギーに入り、また西岸に戻ったらあとはずっと川を下るばかりです。途中踏切とレールの跡(画像右から2枚目)が見えたと思ったら脇道にそれて昔の駅前を経由しました。鉄道の代替としての役目がまだ残っているようです。


 レールのほかトンネルの跡(画像右から2枚目)も見え走っていないことが惜しく感じられました。やがてルクセンブルク方面からの路線が渡る鉄橋をくぐるとほどなくディナンの町に入ります。


 対岸にそびえ立つノートルダム教会とそそり立つ城壁が見えたら終点のディナン駅前(右の画像)はすぐです。ここまでジヴェから約25km・所要時間39分、頻度は日中1〜2時間に1本程度あるので事前に時間を調べていけば「使える」レベルだと思います。ディナンは城壁に上るロープウェイがあるくらいの観光地なのでフランス側から、あるいはフランス側に抜ける周遊ルートにもうまく組み込めそうです。


 という具合に保存鉄道・徒歩・一般鉄道・バスと乗り継いでみました。鉄道が「生きて」いれば全部鉄道に乗るだけで済んだのにとも思うところですが、抜け道っぽい国境を行ったり来たりする「遊び」と乗り継ぎと保存鉄道をいっぺんに楽しめるというのもまた悪くないものです。


■路線バスTEC公式サイト


(2013年訪問)


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