トゥアンの保存トラム『ASVi』(後編・路面電車)


 前編のディーゼルトラムにつづき、今度は電車のトラムに乗ります。訪問時電車が走れる区間は車庫からSNCBのガードをくぐった辺りまでと、トゥアンの町中を東に走った終端のThuin Ville Basseまででした。(路線図は前編のものをご覧ください。)


★標準車体の10308号

 最初に乗った電車は1942年製の10308号です。車体は『Kusttram』の9994号と同様の割り付けで、これが1930〜40年代のSNCVの電車の標準だったそうです。シンプルな「四角ぶり」や窓が大きい点、明るい塗色はディーゼルトラムと共通していてやはり軽快感があります。

 では車庫から乗って、まずは通電している区間の北端にあたるSNCBのガードをくぐったところに着きました。ディーゼルトラムはここから西のLobbesの町に足を伸ばしますが、電車はここで停まってすぐに折り返します。ということはまたすぐにガードをくぐって戻るわけですが、このガードは大変幅の狭いもので「狭隘区間好き」にはたまらない魅力がありました。よくぞ残してくれたと思わずにはいられません。


 ガードからさらに車庫側に少し戻るとThuin Ville Basseへの分岐点があり、ここでポイントを切り替えてトゥアンの町中に入っていきます。保存運行がある日はシーズンの週末を中心にそう多くないのでドライバーが完全な廃線と勘違いしているのか存在を忘れているのか、通るたびに軌道内に駐車されていました。行く手を阻まれた電車が警笛を鳴らしまくるとしばらくしてあわててドライバーが飛んでくる、という図はユーモラスではあるものの困ったものです。


 違法駐車をどかしつつ行き止まりのThuin Ville Basse(左の画像)に着きました。ここはSNCBのトゥアン駅の対岸にあたりこの保存トラムの玄関口ということになります。なので本日保存運行実施中と知らせるため看板代わりに貨車を置いている模様。凝ったことをするものですね。折り返しの帰路はさすがに駐車がなくスムーズに走りました。やれやれ。

 分岐点でスイッチバックをして車庫に到着。降りる前に車内を見ておきます。客室内には仕切りがありボックスシートで落ち着いている一方、大窓が効いて雰囲気が暗くならないという優れたバランスのデザインです。


★手動ブレーキの9924号

 夕方になり閉館時刻が近づいてきました。看板代わりにThuin Ville Basseに置かれた貨車を車庫まで引っぱって来てかたづけなければなりません。

 本日このおかたづけをする運用を担当するのは1931年製の9924号でした。上記の10308号より前の世代にあたり、空気ブレーキがなく手動ブレーキだけです。おかたづけ運用は車庫を出るとガードの先まで進まず分岐点ですぐにスイッチバックをするのですが、そのときLobbesから戻って来たディーゼルトラムが追いついてしまい「早く行け」とせっつかれているようでした。


 分岐して町なかに入ると例によって路上駐車というか軌道上駐車しているクルマをどかしつつThuin Ville Basseに到着。手動ブレーキだけでもさすが運転士さんは手馴れたもので、じわじわと貨車に近づき1本バッファーに当てて静かに停車、すぐにねじ式連結器を締める連結作業が済みました。同じねじ式連結器でもヘビーレールの2本バッファーと違いバッファーの間に入らず連結作業が行われるので見ていてあまり怖さがありません。小さな子供たちも覗き込んで見物していました。


 というわけで無事連結が済み、堂々たる(?)2両編成で町なかを通っていきます。車庫に戻って改めて客室をみると外見同様に10308号より古風でこれもまたよい味です。


★車体更新車9974号

 貨車を回収してきたら車両を車庫にしまうための入替が始まります。この日車庫の外に出なかった9974号を入替ついでにちょっとだけ構内で流し運転するというので乗ってみました。

 この車両は『Kusttram』の10041号と同様に、第二次世界大戦以前に作られた下回りに戦後丸っこい更新車体を載せたものです。10041号がループ状の折り返しが前提の片運転台・扉は右側面のみという構造なのに対し、こちらは両運転台で扉が両側面にあり客室の座席も一方向ではなくボックスシートと棒線での折り返しができる構造になっています。

 というわけで閉館時間までたっぷりと楽しませてもらいました。美しい車両をテーマパークではない普通の町中で走らせ続けてしまうというのは夢と現実がごっちゃになった状態とでも言えばいいのか、その優雅さに感嘆するほかありません。


★おまけ 現役の旧型事業用車

 深夜のシャルルロワ駅に着いて駅前に出たら旧型車が停まっていたのでびっくり。いったい何ごと?と前照灯が照らす先を見に行ったら脱線事故の復線作業中でした。このオレンジの車両は上記の9974号と同様の車体更新車がのちにまた更新された姿で、旅客から撤退したあと事業用車として残っているものです。


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