世界最長の路面電車


 オランダとフランスに挟まれたベルギーの海岸線の長さは約65kmあります。この海岸線を見ていて気になるのが海岸線に併走する「Kusttram」という路面電車の存在です。支線のない一本の路線ながら長さは67kmにも及びベルギーの海岸線の大半を占めています。この数字だけ見ると国境より路線長の方が長いので国境からはみ出す部分もある国際路線と勘違いしそうですが、海岸沿いを逸れ迂回する箇所を含めての距離であってベルギー国内だけを走る路線です。

 これだけ長い路線ながら運行は基本的に全線ぶっ通しなので路面電車の「ひとつの定期系統」の距離としては世界最長ということになります。この停留所数68、所要2時間23分という大物路線に乗ってみることにしました。

※Kusttramの『Kust』は沿岸・海岸という意味です。例えば海岸電軌とでも訳すと昔川崎・鶴見辺りを走っていた電車みたいで味がありますがややくどいので以下では単に「トラム」として話を進めます。


 まず向かったのはフランスに近い南西端のDe Panne駅です。De Panne駅はベルギー鉄道(NMBS/SNCB)とホームを共用し対面乗り換えができる便利な構造で感心しました。トラムの切符売り場はそのホーム上です。

 トラムの配線を見ると大きなループ状の折り返しで、ループの中に留置線があります。ベルギー鉄道側は標準軌・直流3000V、トラムはメーターゲージ・直流600Vなので直通はできずレールは繋がっていません。

 車両は新旧2種類の連接車が混じって運用されています。この画像は車内外両方とも古いタイプの3連接車体のもので、内装はあまり長時間乗ることは考慮されていないただのトラムという感じです。


 De Panne駅のすぐ次の電停がPlopsalandで、その名の通りPlopsalandという子供向けテーマパークがあります。残りの電停は66かと車内の長い路線図を見上げると気が遠くなりました。右下の画像に写っている分で半分程度ですから。


 De Panne「駅」はDe Panneの町の中心部からやや離れているので、トラムはまずその間を結ぶ役割があります。途中線路脇にトラムの「顔」を模した外装のレストランが見えふと「江ノ電もなか」を思い出しました。江ノ電もなかの店先が「ホンモノの顔」を切り取ったものなのに対しこちらは簡易なレプリカですが。教会脇にあるDe Panne Kerk(kerkの意味は教会)電停を過ぎた辺りからDe Panneの町です。


 と、のんびり細かく見ていくとキリがないので先を急ぎます。このトラムは律儀にずっと海岸線に沿って走るわけではなく、沿岸部の町を結んだらだいたい海岸線に沿うようになった、というような線形なので海が見える区間はそれほど多くありません。こと浜辺が見えるような区間となるとごくわずかです。それがDomein Raversijde電停付近で、軌道・陸側が車道と(また意味なく引き合いに出しますが)江ノ電の海岸線区間とは逆のならびになっています。(左の5連接の車両は新型)

 右の画像の右端に見えるなにやら物騒なものは軍事施設の跡を利用した「大西洋の壁野外博物館」です。一瞬電車が撃たれそうに見えドキッとしました。


 この路線は専用軌道と併用軌道を繰り返し変化はあるのですが、車両は新旧どちらもごく静かで乗り心地も上々と(話が逆ですが)やや乗り疲れます。De Panne駅から所要1時間15分とこの路線のだいたい中間にあるOostende Marie Joseplein電停(左の画像)で軽食をとって一休みしました。ここは沿線一の規模の街Oostendeの中心にあたります。

 お腹がふくれるとウトウトしてしまうのは仕方のない、と言い訳しつつこの後はどうも「消化乗り」っぽくなってしまうものの、それでも重くなったまぶたが開きオッと思ったのが右の画像の可動橋です。興味深いのは可動橋そのものよりむしろ「可動橋が開いている間迂回するための別線」というものがあることで、そこを通ったあと後方(西)を見て気づきびっくりしました。

 画像はZeebrugge Zeesluis電停から西を見たもので、正面の可動橋上を通る本線は開橋時通れなくなるため左に分岐している別線で内陸寄りの橋へ迂回します。


 という具合に延々と乗り続け北東側の端、オランダに近いKnokke駅に着きました。ここも南西端De Panne駅同様にループでの折り返しで車庫が併設されています。長い路線ですが全線にわたってひらけていて乗客も途切れることがなく、なるほどぶっ通し運転をするわけだと納得しました。


 このトラムは沿線がにぎわうバカンスシーズンには10分間隔で運行されます。(時期により15〜20分間隔と増減)この便数の多さ、車両・設備が大変きれいに保たれていることなど地味な良い点に目がいくと世界最長という派手な特徴を忘れてしまいそうです。つまりそれほどしっかりとした路線というわけで感心させられました。

※この路線を一部使用した動態保存車両の運行が行われています。その様子はこちらです。


■運行事業者De lijn公式サイト


(2013年訪問)


景色は乗った後に(表紙)ベルギーもくじ>このページ

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