メーターゲージの非電化保存トラムTTA


 かつてベルギーには都市にも「田舎」にも電化・非電化両方のメーターゲージトラム網が広がっていたそうです。そのうち都市のトラムすなわち路面電車は現在まで生き残っているものがあるのですが非電化トラムは消えてしまいました。ただ幸いなことに観光や保存目的で残っているものがあり、そのうちのひとつが『TTA(Tramway Touristique de l'Aisne・エーヌ川観光軌道)』です。ここは廃線跡を利用した保存鉄道で、今も動態保存している車両に乗ることができるというので行ってみることにしました。


 TTAの路線はリエージュ(Liege)の南に位置するEreseeというところにあり、ベルギー鉄道(SNCB)は通っていないので公共交通で行く場合バスになります。バスが出るMelreux Hotton駅まではリエージュの中心駅リエージュ・ギユマン駅(Liege guillemins)からMarloie方面に向かう列車で1時間弱です。

 このバスが難物で、Melreux Hotton駅からErezeeに行くバス(11系統・Manhay行き)の時刻をTEC公式サイトで調べたところ運行が平日のみで土休日運休でした。TTAの運行日はハイシーズン(7・8月)以外は週末が中心ですから、バスで行こうという場合ハイシーズンの平日を狙わざるを得ません。


 というわけでバスとTTAの両方が運行されている7月の平日にMelreux Hotton駅前(左の画像)に出向きました。駅もバス停もキレイですが駅前は閑散としています。ここで前述の11系統に乗るとTTAの乗り場があるPont d'Erezee停留所(右の画像)までは20分弱です。

 ただこのPont d'Erezee付近には店などがなく列車の運行時刻まで間があったため、ここから1kmほど先のErezeeの中心にあるErezee Eglise停留所まで行ってからバスを降りました。Erezeeの中心とは言ってももともと小さな集落ですが店やレストランやホテルがあります。

 Erezeeの中心は小高い丘の上にあるため、用を足したあとのPont d'Erezeeまでの道は下り坂です。右の画像のようにTTAを見下ろしながら改めてPont d'Erezeeに戻りました。

(※Erezeeの中心はMelreux Hotton駅〜Manhay間の経路から飛び出した位置にあるため、11系統のバスは往復ともPont d'Erezee→Erezee Eglise→Pont d'ErezeeというようにPont d'ErezeeからErezeeの集落に寄ってまたPont d'Erezeeに戻り先に進む、という経路をとっています。)


 前置きが長くなりましたがTTAに着きました。玄関口のPont d'Erezee駅構内を見ていきます。まず看板代わりなのか入口に置かれているのが古そうなオープン客車A8895(本当に古い1913年製)と、なんだか凸型電機のでっぱりをちょん切ったようにも見える茶色の車両が置かれています。後者はスノープラウ代わりに動力車の前方に連結して使う無動力の除雪用車両(A8178)で、割と新しそうにも見えますが1952年製と結構な年代モノです。


 ホームには駅舎というか案内センターのようなまだ新しい立派な建物があります。入ってみると1階には乗車券やグッズの売店や喫茶コーナーがあり、2階は鉄道についての展示室になっていました。


 展示室や留置されている貨車や客車を見ているうちに保存列車が発車する時刻になります。この日動く車両は1934年製のART69が2両の客車を牽く3両編成(右の画像)です。

 ART69はディーゼルトラム(例:ASViのAR86)の客室から座席を撤去し機関車代わりに使う車両としたもので、形式名が元のAR69(AutoRail・気動車)からART69(「T」はTracteur・牽引車)に変わっています。


 ART69は単に客車や貨車を牽くだけでなく元客室のスペースを活かし事業用車としても使われているようです。運転台は別項のAR86と同様なので操作については省きます。


 引っ張られる客車はディーゼルトラムよりずっと古く、緑の客車A1208は1907年製、オープン客車A8944は1916年製です。ディーゼルトラムが登場する前の時代は蒸気機関車に牽引されていました。


 では出発です。Pont d'Erezeeのpont(橋)はエーヌ川に掛かっているもので、列車はこのエーヌ川(ムーズ川/マース川の支流)に沿って南東(上流側)に走っていきます。ただ川は木立に隠れあまり見えません。軌道の状態があまりよくなさそうなのと後ろに2両もぶら下げているからか走りは始終ごくゆっくりでした。ワンちゃんと一緒に表の空気を吸いながら最初の駅Blierに到着すると車庫が見えます。


 この列車自体も行楽客を乗せているのみならず沿線にはキャンプ場が見え車内も外もすっかりバカンスシーズンという雰囲気でした。次の駅Amonines(左の画像)は昔は結構広い構内だったと思われる交換駅です。途中駅での乗降も可能ですがBlier駅ともども乗降はありませんでした。

 という具合に途中駅を2つはさみPont d'Erezeeから25分・約6km走ると終着駅のForge A l'Aplez(右の画像)に着きます。軌道はこの先も続いていて今後再整備し保存運行区間を延ばす計画があるそうです。


 Forge A l'Aplezは1面2線の島式ホームになっていて前後の本線を使い機回しをします。乗客を見るとみんな往復のとんぼ返り利用でした。なので機回し作業の間は下車しなんとなく見物して過ごすことになります。


 連結作業の段になるとみんな興味津々で注目し、無事連結が済んだら折り返し列車の出発です。

 復路は牽引車のART69にお邪魔しかぶりつくことにしました。改めて運転台を見ると木でできたスタフが積まれています。交換列車の設定がないので交換するところは見られませんでしたが「Forge-Dochampe」という現在は保存運行のない区間の字が見えたのでうれしくなりました。

 往路は駅の画像ばかりだったのでひらけた沿線のように思われたかもしれませんが、駅以外の沿線風景はこのように木々に囲まれているところが多く、またか細く見える軌道とあいまってスピードはゆっくりでもにぎやかなエンジン音を聞きながら軽便鉄道っぽい雰囲気を満喫できます。

 メーターゲージとなるとニブロク762mm軌間程度の軽便に比べればだいぶ広いものの、標準軌のヘビーレールSNCBに対する低規格のSNCVという役割分担を考えればその位置づけは日本の軽便鉄道のようなものですからベルギーの軽便鉄道と言ってよさそうです。そういえば日本の狭軌1067mmに対する762mmの幅の割合は標準軌に対するメーターゲージの割合とだいたい同じくらいなのでちょっと面白い気がしました。


 Pont d'Erezee(左の画像)に戻ってきたら往復で小一時間かかる乗り鉄はおしまいです。名残惜しい気分でMelreux Hotton駅に戻るバスに乗っていたらHottonの町で客車(右の画像)が野外に展示されているのが見えました。かつてはPont d'ErezeeからMelreux Hotton駅の間にも軌道が続いていたのでその廃線跡で静態保存しているというわけです。TTAの動態保存区間やこの廃線跡が廃線になったのは1959年と実に半世紀以上も昔ですが、今も生きていた時代を感じることができる保存がされているのはすごいことだと思います。


 というわけでアクセスはあまり便利とは言えませんが、ひなびた沿線風景と古い車両を楽しみつつ非電化メーターゲージ黄金時代の名残を味わえる素晴らしい保存鉄道でした。


■TTA公式サイト

■ベルギーのメーターゲージ保存施設「ASVi」の話(当サイトのコンテンツ)


(2013年訪問)


景色は乗った後に(表紙)ベルギーもくじ>このページ

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