メーターゲージの単端式気動車(前編)


 チリの首都サンティアゴから長距離列車で南に250km下ったところにタルカ(Talca)という内陸の都市があり、タルカから太平洋岸のコンスティトゥシオン(Constitucion)という町までレールバスという意味のBuscarrilと呼ばれているメーターゲージの枝線が延びていて単端気動車が1日2往復しています。現存する旅客鉄道が少なく広軌が主のチリにメーターゲージの枝線が残っているというのは気になり乗ってみることにしました。


★コンスティトゥシオン駅

 時間の都合でタルカからコンスティトゥシオンまでバスで移動してからこのメーターゲージでタルカに戻る行程をとったので、まずコンスティトゥシオン駅から話を始めます。タルカからのバスを降りたバスターミナルに隣接しているコンスティトゥシオン駅を見てみると看板にコーラの広告が載っていてなんだか田舎のよろず屋のようでした。単に構内にカフェがあるからですが大きなメニューも入り口にかかっているのでいよいよどっちが本業だかわからない雰囲気です。にぎわうバスターミナルとくらべずいぶんとひっそりしているように感じました。列車が朝夕1往復ずつとなれば無理もないのですけれど。

 バスは同じタルカ〜コンスティトゥシオン間を2時間弱で結び数社による運行で頻発しています。(タルカのバスターミナルは鉄道駅の裏側にあり駅から徒歩10分程度)となれば3時間20分もかかるこのか細い路線など廃止されそうな気がしますが、なぜこの路線が残されているかというとレールが敷かれているマウレ川右岸に沿った代替道路がなく、タルカ〜コンスティトゥシオン間のバスは川を挟んでかなり南側に離れた道路を通っているため代替交通にならないからだそうです。このレールバスは1日2往復ながら大変重要な生活路線というわけでひっそりとした駅舎も発車時刻が近づくと乗客が集まり出札口に列ができました。


 ホームにはこれからタルカまでの89kmを3時間20分かけて走る列車が待っています。カワイイと言わざるを得ないリブのついた丸っこい車両の3両編成で、エンジンがついている単端式気動車の先頭車が後ろ2両を引っ張ります。この列車は運転台が片方にしかないためウルグアイと同様にターンテーブルで方向転換しているそうです。

 車内に入ると狭めで天井も低めですが断面の丸っこさがいいのか案外と窮屈には感じません。座席は比較的新しいものが据え付けられています。運転室の壁にはちゃんとガラスが入っていてかぶりつき席もありちょっと私鉄電車の先頭のように見えたりもしました。とりあえずこのかぶり席を確保したのですが発車間際には満席になり立つ乗客も出たのでお年寄りに譲らざるを得ません。走行中は運転室にお邪魔してかぶりつくことになります。

 運転室は真ん中にエンジンが陣取っているためやや手狭です。運転台を見ると補修の後がいくつもあり手作り感あふれるいい味を出していました。

 発車が近づくと運転士さんが大きなフタを開け整備点検をしエンジンをかけます。フタはあるにしても目の前ですから走行中の運転室内の騒音はかなりのものです。


 16:15、定刻に夕方の列車が発車します。予想通りというかあまりスピードは出ないのですが、それでもスピードメーターを見ていると40km/hには達していました。

 コンスティトゥシオンの町を抜けるまでは専用軌道だか併用軌道だかよくわからないようなところを走り、町を出ると鉄橋を渡ってマウレ川の右岸にとりつきあとはひたすら上流へと進みます。途中止まるところは駅舎とホームのある「ちゃんとした」駅のみならず、簡易なホームしかない駅、ホームなしでバス停のような標識だけがある駅、果ては正式な駅ではないようなただの線路脇で停まり客扱することもありました。そうした小さな駅でも乗客のみならず出迎えや見送りの人が見えほのぼのした暖かいムードが続きます。途中乗降する乗客が多く車内は終始にぎやかで車掌さんは切符を売り歩き忙しそう、というわけでローカル線にありがちな閑散とした雰囲気ではありません。なるほどこれは大事な路線だと感心します。

 左端は車内で販売されていた乗車券の表紙で、コンスティトゥシオン駅の出札口で販売されていたものもこれと同様です。

 18:00、路線の中間に位置するGonzalez Bastias駅に着きました。ここで上下列車が交換します。タルカからやって来た対向列車は2両編成でこちらとは違う顔の車両でした。1日2往復の列車は2運用で運行され、ダイヤは朝夕両方ともこの駅で交換するという単純明快なものです。

 ほぼ半分まで来たので一旦区切りここからタルカまでの話は後編とします。


続きは後編です。


景色は乗った後に(表紙)チリもくじ>このページ

inserted by FC2 system