リールの保存路面電車


 フランスは今でこそ全土に路面電車が点在するLRT大国ですが、かつては路面電車を廃止する流れが強い国でした。第二次世界大戦以前から現在まで継続して路面電車が存在する都市はわずか3都市だけです。その一つがフランスの北端に位置する都市リール(Lille)で、今は新しめの連接車が郊外に向けて走っています。

 このリールでありがたいのが現役の路線とは別に動態保存用の路線が存在することです。路線長は約2.5km、停留所は4つと聞けば構内運行程度のものではないはずで、一体どんな様子だろうとわくわくしながら乗りに行きました。


 この動態保存用の路線は他の路線と線路が繋がっていない単独の路線です。位置はリール中心部の北側、デュール川という運河の東岸を南北に走っています。乗りに行くための足はリール中心部から数系統のバスを利用することができるので便利です。私はL1系統のバス停Wambrechies Mairie(西岸側)で降りてVent de bise電停に向かいました。バス停のあるWambrechiesの町はなかなかキレイで、レストランやカフェがいくつも見え電車抜きでも悪くない時間が過ごせそうな雰囲気です。ジェネヴァやジンを作る醸造所なんてのもあり蒸留器をかたどった噴水が目立っていました。


 デュール川の西岸から東岸へ橋を渡っていくと真下付近にVent de bise電停が見えたので迷うこともなく無事お目当てにたどり着けます。軌道は遊歩道と一体化していて時折犬の散歩やジョギングの人が通りなんだか頼りない感じです。電停もそっけなく本当に電車が来るのか不安になった頃でっかいパンタを載せたボギー車がやってきてほっとしました。この日運行されていたのは1920年製の432号車です。

 この電停近くは併用軌道なので車掌さんが降りて安全確保をしていました。警報機も備え付けられているのですが、いわゆる「ヴァンダリズム」によって壊されてしまったのだそうです。困った輩がいるものですね。


 乗り込むと運転台にはトムソン・ヒューストン社の古風なコントローラが鎮座まします。空気ブレーキも装備し意外に飛ばすのでいい釣り掛け音が聴けました。

 かつての路線図が誇らしげに貼られています。ニス塗りが映える客室には転換クロスシートが並び、窓の曲線美や凝ったデザインの照明が大変優雅な雰囲気です。

 路線図ついでというのもヘンですが、ここで現在の動態保存路線の停留所の位置関係を示しておきます。

北側←【Ferme Saint Chrysole】〜【Vent de bise】〜【Depot】〜【Pont Mabille】→南側


 Vent de biseから乗って北端のFerme Saint Chrysoleに到着すると広場の一角に大変面白いデザインのバスが置かれていました。ソミュア社(Somua)のバスで1955年製とのことです。


 北端から一旦先のVent de bise電停を通って今度は南端に向かいます。橋をくぐり併用軌道を越え川っぺりを走り車庫の脇を抜け、と思ったより変化があり結構乗った気になれました。考えてみれば2.5kmというのは岡山電軌の岡山駅前〜清輝橋間を乗り通すより長いのですから「遊び乗り」にしてはなかなかの距離です。右の画像が南端のPont Mabille電停で、ここは特に何もないような終点でした。


 南端からちょっと戻ったところがDepotすなわち車庫です。ここではしばらく停車時間があり下車して中を見たり電車グッズを買うことができます。右の画像に写っている左の車両は1921年製の単車74号、右は1910年製のボギー車420号、手前の架線作業車は1960年製です。


 というわけで全線乗り終わりVent de bise電停に戻りました。古い車両の維持もさることながらこれだけの規模で架線を引いた専用線を維持していることにも感心させられるばかりです。


■AMITRAM公式サイト 運行日・時刻表等が公開されています。


(2013年訪問)


景色は乗った後に(表紙)フランスもくじ>このページ

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