インドの客車急行


 インドの客車列車というと小さい窓に鉄格子がはまった青い客車の重たいイメージがまず浮かびいまいち乗りたい気が湧いて来なかったりもするのですが、これはICF(Integral Coach Factory)製で台湾の普快車に使われる客車と同じメーカーというといくらかは身近な感じもしたりです。以下この車両が使われているインド南部のヴィシャーカパトナム(Visakhapatnam)付近で乗った急行(Express)の様子を見て行くことにします。


 この急行にはいくつかの等級が連結されていますが切符を買ったのが間際だったので乗ったのは最下級の自由席車(サボと共に車両に掲げられる記号はGS)です。客室の座席配置は通路を挟んで4人掛けボックスシートと1人掛けボックスシートが並びやや圧迫感がありました。寝台車(後述)もこのような配置で旧ソ連地域の3等寝台に似ています。ちなみに4人掛けは5人腰掛けるのがごく普通でぎゅう詰めになっていましたがそこは杓子定規ではない助け合いの精神も感じられるところです。


 自由席車は混んでいて席にありつけず乗るたび荷棚のお世話になりました。自由席車の荷棚はごく普通に座席代わりに使われているのでハシゴがなくても昇り降りできるのであれば使う価値ありです。荷棚とは言えもし1人占めできればちょっと寝台のような気分になれますがなかなかそうはいかず荷物が載っていない場合で荷棚の定員は2人というのが不文律のようでした。そうなると相当窮屈ですから立っているのとどっちがいいかはその人次第でしょう。 また荷棚がパイプの場合は板張りにくらべ食い込んで痛いのでその辺りの違いも考慮する必要があります。車窓がろくに見えないので飽きるのも難点ですがときおりやって来る車内販売を呼び止め上から手を伸ばし軽食や飲み物など買ってつまむと幾分気分転換になりました。


 自由席車には貫通扉がないので駅で乗る車両を間違えないようにしなければなりません。もし寝台車の指定をとっていて駅で発車間際に自由席車に飛び乗ったみたいなことになったら次の停車駅まで移動できないので損します。以下は連結されていた寝台車の画像で左からエアコンなしの3段寝台(S)、エアコン付き3段寝台(B)、エアコン付き2段寝台(A)です。(それぞれ1列席側の寝台は長手方向で2段)

 なおこの列車の編成は自由席車3両、エアコンなし3段寝台13両、エアコン付き3段寝台3両、エアコン付き2段寝台2両、さらに後述の合造車が2両というかなり長いものですがインドの列車はこのような20両越えがざらでホームも長いのでウロウロ見物しているとくたびれます。


 終着駅では外からは窓の掃除、中からは使用済みのリネン類が勢いよく投げられ壮観でした。サボは各車それぞれ適当に(?)英語・ヒンディー語・地域の公用語(この列車はアーンドラ・プラデーシュ州の公用語テルグ語)の3言語のどれかのものが差され、列車の両端の車両には種別・列車番号入りの大きく立派なものが掲げられています。


 両端に連結される車両は自由席車・荷物車・緩急車の合造車(SLR)で、ここを女性専用車にしている列車も何度か見かけました。その場合のサボ差しの女性専用車表示札は3言語の上に絵も入りなかなか凝っています。

 駅のホームでこの車両の近くにいたら何やらカンテラのようなものが見えるので何かと思ったらこれを使って荷物室の扉が封蝋で封印されるのでたまげました。渋い方法を行なっているものですね。


 さらに手ブレーキなど見物していたらこの車両に乗りたくなりましたが元々混んでいる上合造車だと客室が小さいわけであっさり席にあぶれてしまいました。幸いデッキで大荷物を持った奥さんがここに座ればと場所を空けて下さったので一応落ち着けます。

 走り出すとステンレスの器に入ったお弁当を手で召し上がるのでさすがインドと感心しましたがそういえば出先の場合後片付けはどうするんだろうとちょっと気になりました。すると水を入れて手と器をすすぐという手順が続き、水を車外にバシャッと捨てれば片付けが終わるという手順でなるほどと感心です。おかげで列車に乗っていてときおりバシャッという音が聞こえるのはこれかと気づきましたが、となるとのんきに顔を外に出していると危険ですね。(ほとんどの窓は鉄格子状で顔など出せないものの乗降扉や非常口は開けられます。)

 そのうちとある駅に着くとサンダルを履いてホームと反対側の私の側の扉から降り、頭に載せてと頼まれたので結構重いことに感心しつつ荷物を載せると笑顔で振り返ったのち悠々と歩いて行かれました。韓国なんかでもそうですが頭で上手にモノを運ぶ様子を見ると憧れてしまいます。


 見送っていたら他の方に肩を叩かれあっちあっちと客室に誘導されるので向かうと荷棚に空きができていました。ここに上がりなよというわけで混んではいても情けが身に沁みます。この客室は2段寝台でも利用したものなのか荷棚が低いので他の自由席車に比べゆったりできました。ただそれだけにまた混んでくると3人掛けになりさらにはお父さんが子供を膝に乗せるという具合で大盛況になりましたが。なんだかとりたてて似ていないのになぜかアメリカの近郊列車に使われている吹き抜けの2階建てを思い出したりで妙な気分にもなりつつ荷棚の収容力に感心させられました。


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