コルカタの近郊電車(後編)バングラデシュ国境見物


 コルカタからは近郊電車があちこちに向かって出ています。釣り掛けだし少し長めに乗ってみようと思ったもののそのくらいの理由だとなかなか行先が決まりません。悩んでいるうちにコルカタの東にあるHasnabadというところが目につきました。ここは前編で見たシアルダー(Sealdah)駅から2時間強で着く行き止まりの駅でバングラデシュ国境に近くなんとなく興味をそそられます。じゃここにしようと行ってみることにしました。


 お昼前のシアルダー駅でHasnabad行きに乗り込むと12両の長い編成ながら座席がかなり埋まっていて結構先は長いのにやばいなあと心配になりましたがなんとか1席見つけまずはホッとします。発車前から始まる車内販売は発車してからいよいよ盛んにやって来るのでよく売れるものだと感心しました。金具で吊り革にうまく吊るして見せる工夫などさすがというところです。飲み物やお菓子、軽食の類はもちろんですが果物の販売がやけに盛んでした。ブドウにリンゴにミカンとそれぞれ大きな籠を頭に載せて持ってきて天秤ばかりで量って売る姿はなかなかイキです。結構売れていましたが電車に揺られながら見るとお土産に買って帰ろうという気分にでもなるのでしょうか。車中で退屈しているとつい買いたくなるという心境はわかる気がしますけれども。


 コルカタの街中から郊外に抜けBarasatでHasnabadに向かう支線に分かれると車窓がひなびて来てそのうち単線になりました。遅延も含めて2時間ちょっと乗り、降りたのは終点からいくらか手前のBasirhatというバングラデシュ国境に近い駅です。コルカタをはじめインドの街中はオート三輪がたくさん走っていてにぎやかですが、この辺りの町中を走るオート三輪は電動だけになっているのだそうで駅前通りは静かでした。

 遅めの昼を食べようと目についた食堂に入り他の人が食べてた定食みたいなのものを頼んでみます。味は悪くないもののご飯が多いのでおかずが足りなくなり何か追加できるものがないか聞いたらこれなんかどうとこの辺でとれた川魚だというカレーが出てきました。これもなかなかウマくお腹いっぱいです。

 食堂を出て乗合の電動オート三輪を停めバングラデシュ国境に行きたいと言ったら運転士さんがどうしたものかと乗客に聞いたりした結果しばらく行ったところで乗り換えろということになりました。


 電動オート三輪に乗ること数分で橋が架かる川っぺりにある電動でないオート三輪が溜まっているところに着き、そのうちの1台に乗り換えます。この乗合オート三輪は乗客9人に運転士さんの計10人というぎゅう詰めで飛ばすのでよくつかまっていないとなりません。電動の方は遅く町中をのんびり走るのでオート三輪の市内線とするとこっちはオート三輪の郊外線という感じでしょうか。

 橋を渡ってどうということもない道を走ること20分くらいで国境手前の検問で着きパスポートを見せたところバングラデシュのビザがないと通れないと言われました。バングラデシュに行くつもりはなかったのでビザは用意していませんでしたが一応ダメもとで日本人はバングラデシュのアライバルビザがとれるらしいと言ってみたところ上司らしい人に相談に行ってやっぱりダメ、となったのでこの国境(Ghojadanga Check Post)を越えるときは予めバングラデシュのビザを取って行った方がよさそうです。

 国境見物が終わったのでまたぎゅう詰めのオート三輪で川っぺりに戻るとBhyablaに行くという電動のオート三輪が来たので乗ってみました。BhyablaはBasirhatのコルカタ寄りの隣駅でせっかくだから降りたのとは違う駅から乗ろうというわけです。Bhyablaは単線に片面ホームのシンプルな構造ですが結構賑わっていて出札口では硬券が売られていたのでうれしくなりました。

 Hasnabad行き列車の時間までしばらく待たねばならないので駅前通りの売店でサムズアップ(コーラ風の炭酸飲料)にチャイと続けて飲んで時間をつぶしていると近所の方と雑談になります。そうなると早いもので列車が入線するタイフォンが聞こえ大慌てでサイフを出そうとすると払いは任せとけ急げ急げ、と奢って頂くことになりました。


 飛び乗った列車は混んでいたので開けっぱなしの出入口につかまってのハコ乗りになります。結構スピードが出るので気持ちよくまたスリリングでもありました。さっき降りたBasirhatは交換可能な対向式ホームの駅で、ホーム側に降りて跨線橋を渡るのはめんどくさいと線路側に飛び降りてまた対向側のホームによじ登る横着な向きも結構いるのですが高床用のホームなので横着なりに大変そうです。

 青々とした田んぼを見ながら15分ほど揺られ終点のHasnabadのひとつ前のTaki Roadで降りました。駅前には自転車に板の荷台というか客台(?)をつけたシンプルな乗合の輪タクが集まり行先を連呼しています。そのうちの1台が行こうと思っていた方面の「Guest house」を連呼していたので近寄ると学校帰りらしき小学生や買い物帰りらしき女性も来て計3人を乗せて出発します。


 平坦な道ではあるものの3人乗せて自転車漕ぐのは大変だなあと思いつつ15分ほど乗ると目当ての大きな川(Ichamati River)に着きました。この川っぺりは宿泊施設がいくつも並ぶ観光地なので「Guest house」と呼ばれているというわけです。遊覧船の船着場なんかもあるものの平日の夕方だからか観光客らしい人は見かけずやや寂しい雰囲気でした。

 この川はBasirhatでオート三輪に乗って越えた川の下流ですが、インド国内の川だったBasirhat付近とは違いここではこの川が国境になっているので対岸はバングラデシュです。このまま海まで国境はずっと川で両国を結ぶ橋はないようですから先に見物したGhojadanga Check Postはおそらく最南の出入国審査場と思われます。陸上の国境に続き川の国境も見物しようとここに来たもののそんなに長く見物する間がもつという感じでもありません。しばらくウロウロしたらとりあえず満足し日もだいぶ傾いて来たので電動オート三輪が集まる一角に行き先を急ぐことにしました。


 電動オート三輪にはRICKSHAWと書かれています。日本語の人力車のリキシャが語源になってオート三輪の呼び名になりさらに電動になっても、というわけで面白いものですね。15分ほど揺られて着いたのはHasnabadの渡船場です。ここは行き止まりの駅がある町の対岸に橋のない大きな中州が広がっていて渡船が通う、という場所なのでなんとなく面白そうだと思って寄ったのですが立ち乗りの渡船が次々と行き来する様子は予想以上に壮観でした。ただ近くに大きな橋が建設中だったのでこの光景は遠からず変わりそうです。


 渡船に乗って着いた対岸にはそう大きくない市場がありました。こういうところだけに川魚や川海老が目につきまだ生きているものが多くそれこそ新鮮そうです。使われている包丁は刃が板の台に固定されたもので、食材を切るときは包丁を持つのではなく食材の方を持って包丁に当てて切るのでなんだか不思議な感じがします。こうした魚を扱う店は魚を売るだけでなくごく少ない量で持ち込まれる魚の買取もしていて売ったり買ったりの両方がちょこちょこと行なわれる様子は面白いものがありました。

 そうこうしているうちに日が暮れて来たので渡船で戻ります。行き止まりの終点Hasnabadの駅舎内にはトラが川に飛び込む様子を描いた大きなタイル絵が飾られていました。そういえばインド・バングラデシュ国境に沿って川を下って行った先にはベンガルトラの生息地があります。(もういないものの)韓国のようなトラは山にいるものというイメージをいつの間にか持っていたせいか川を下るとトラがいるというのはなんだか不思議な気がしました。

 ここからはコルカタに戻るだけですがもう暗く車窓が見えません。車内販売のチャイを飲み釣り掛け音を子守歌にうとうとしながらコルカタまでの2時間を過ごしました。


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