国境越えポストバス


 スイスでは郵便物と旅客を一緒に運ぶために整備されたことからその名がある「ポストバス」のバス網が小さな集落にまで発達しています。そのポストバスのうち、スイス東部、レーティッシュ鉄道のツェルネッツ(Zernez)駅からイタリアのマッレス(Malles/ドイツ語はMals)駅までの国際線に乗ってみることにしました。


 ツェルネッツまでレーティッシュ鉄道に乗ったときの様子はこちらをご覧下さい。ツェルネッツ駅前のバス乗り場に行くとポストバスらしいというべきか停留所名は駅前ではなく「郵便局前」でした。車体のホルンのマークが頼もしく見えます。

 乗車する際切符を購入しようとしたところ割引パスを持っていないか念を押され面喰いました。見ていると観光客も地元民も乗客は皆何かしら提示していたのでなるほどと思うところです。スイスの交通機関は高運賃ではあるものの色々な割引があるので対策を練って利用する乗客が多いのでしょう。ちょっとスイスに寄るだけの私は割引手段がなく普通運賃24フラン、訪問時のレートでざっくり2000円くらいと1時間半の乗車時間から考えると高めに感じますが、この路線は風光明媚なところを峠越えし下りながら国境を越え、と変化に富んでいるはずなので気分的にもとがとれるだろうとセコい皮算用をしておきます。


 しかし不幸にも悪天候で山並みは霞みどうもイマイチの乗りバスでした。山間部で乗りバスするときに降られるとどうにも救われません。日ごろの行いが悪いのでしょう。ヘアピンカーブで峠を越えるまでは厳しい道でしたがやがて穏やかになってきます。


 時々通る集落で狭い中心に寄り道するいわば旧道経由という感じの場面が救いで、狭隘区間がちらほらと出てくるのが楽しみになりました。ときおりこちらのバスに接続する小さなポストバスが待っているのが目に入ります。悪天候の時にバスが待っててくれるのを見るのは何とも頼もしいものですが冬が厳しいスイスのことですから運行の維持は大変なことでしょう。


 乗りバスの後半、間もなくイタリアというところでミュスタイアという町を通ります。整備中の建物は聖ヨハネ修道院という世界遺産なのだそうで付近に結構な広さの駐車場も確保されていました。私はそういう方面にあまり興味がないのでどのみち車窓から見るだけですが、とりあえず気持ちよさそうな田舎の山村という感じだったので天気が良ければ途中下車してのんびりするのも悪くなさそうです。

 ミュスタイアを出ると間もなく国境の検問を通過しました。検問と言っても特にチェックもありませんがここで国境を越えてイタリアに入ります。と言っても同じような田舎の風景が続くだけでそう変わった感じもしませんけれども。


 やがて雰囲気のいいマッレスの旧市街に入ると学校帰りかピザを買い食いして歩く子供がずいぶん多く目に付きイタリアに戻ってきたなあという気分が湧いてきました。もっともスイスの子供だって帰り道にピザ屋があれば結構買い食いしているのかも知れませんからあくまでこちらの勝手な思い込みですけれど。

 乗りバスの最後に登場したのが旧市街の出入口になっている狭き門です。遠目に見た時まさかここをくぐるとは思わずびっくりしました。狭い上に対面通行ときているので前方を確認しつつ慎重なハンドルさばきで通過します。


 狭き門を抜け旧市街から高台に上がっていくと間もなく終点のマッレス駅です。ツェルネッツから1時間半、ほぼ定時での到着でした。この駅はメラーノ(Merano/Meran)から谷筋を上がってくる非電化鉄道(Ferrovia della Val Venosta/ドイツ語Vinschgerbahn)の末端にあたり、イタリア側から見ればスイスを見上げたどん詰まりということになります。鉄道のホームは新しくバスと同一ホーム上で乗り換えできるようになっていて大変便利です。アルプスのバス・鉄道乗り換え駅ということからなんとなく松本電鉄の新島々を思い出しました。

 停留所や駐車場はポストバスとイタリア側の交通事業体SADが共用しています。日本の駅前でも○○バスと××バスのテリトリーの境目の駅前なんて言うとこんな感じだったりはするもののここはテリトリーどころか国が違う事業者なのでスケールが大きいというかなんだか不思議な感じです。駅前は乗り継ぎは便利ながら閑散としたところなのできちんと食事その他用を足したい場合は旧市街で途中下車した方がいいと思われます。昼食を食べたかったものの旧市街まで戻る時間のなかった私は駅舎にあったバールでサンドイッチとコーヒーを食べておしまいでした。


 ここから乗った列車はSADが運行する新しい低床の連接気動車です。全般に落書きがひどいイタリアの鉄道車両の中でここの車両はキレイでした。また折り返し時間には結構念入りな清掃が行われていて車内もピカピカです。この辺りはイタリアでもドイツ語圏の南チロルなので車内の電光掲示板と案内放送も2言語で行われます。この車両に乗ってメラーノまで下り、さらにFSの枝線に乗り換えて本線筋にあるボルツァーノ(Bolzano/ドイツ語Bozen)へと下りました。


(2009年訪問)


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