海に向かう釣り掛け電車(ナポリ)


 ナポリ近郊に延びる鉄道の一つ、SEPSA(Societa Esercizio pubblici Servizi Spa)の運営する近郊電鉄チルクムフレグレア線(Circumflegrea)とクマーナ線(Cumana)線に乗ってみることにしました。

 この2線のターミナルはナポリの街中にあるモンテサント駅(Montesanto)です。終点はどちらも同じで西郊の海に突き当たった終点Torregaveta駅ですが、北の山側経由で行くのがチルクムフレグレア線、南の海側経由がクマーナ線という位置関係になっています。


 モンテサント駅はEの字のホームに4線が配置され、1・2番線がクマーナ線、3・4番線がチルクムフレグレア線です。トンネルを出たところに2つの路線が同居する様子は井の頭線渋谷と東急蒲田を足して2で割ったような感じで親しみが湧きました。

 乗って着く先は同じなのでどちらから先に乗ろうかというところですが、ホームを見ると古い電車300形が2番線に停まっていたのでクマーナ線から乗ることにしました。


★南回りのクマーナ線

 300形はうれしいことに釣り掛けです。ただこれは区間電車で途中のBagnori駅止まりでした。Bagnori駅のホームに降りて見ていると乗ってきた列車は本線上で折り返しモンテサントに戻る上りホームに入ります。中線はなく複線の本線を使った折り返しでホームが高床となるとなんだか日本の都市近郊私鉄のようです。


 優等がなくBagnori折り返しの区間電車と終点Torregavetaまで走る電車がそれぞれ日中20分毎というダイヤなので、区間電車を降りて10分待てば終点まで行く電車がやってきます。車両はまた同じ300形でした。

 郊外電車らしく車窓は住宅が多いのですが、終点が近づくと美しい海岸べりを走ります。景色に見とれてか海岸を見るなり首を出し一服つけるオヤジさんが登場しました。車内禁煙なのでマネをしてはいけません。(タバコは窓の外だから車内じゃない、とかになるとトンチの世界ですね。)


 区間電車に乗ったので乗り換えを挟んでしまいましたが、モンテサントから乗る時間は正味だと35分で終点Torregavetaに着きます。駅を出るとすぐに海岸がありますが見に行くと水は思ったほどキレイでもない印象です。狭い駅前からはバスも出ていてちょっと惹かれたのですが、時間に余裕のない旅行中なのですぐに北回りのチルクムフレグレア線でモンテサントに戻ることにしました。


★北回りのチルクムフレグレア線

 では北回りで戻るチルクムフレグレア線に乗ります。北回りの末端区間は便数がぐっと少なくなるため北回りでナポリへ出る人は私のような鉄道マニアくらいしかいなさそうです。運用を南北で使い分けているかどうかはわかりませんが、私の乗った車両は南回りで乗った300形より古いパノラミック2枚窓100形でした。この車両も釣り掛けです。丸っこいので釣り掛けではないもののなんとなく(実物を見たことはありませんが)名鉄5000系っぽい感じがします。そういえば名鉄5000系はパープル塗り時代があったのでパープルとその後のスカーレットでツートンに塗ったらこんな感じになるでしょうか。いよいよこじつけになりますが。

 車内にはコチコチシートが並んでいます。北回りは最初単線でのんびりした海沿いの田舎を走り、海から離れ内陸部に入りナポリに近づくにつれ勾配もある住宅地の複線を南回りより飛ばすのでなかなか豪快な釣り掛け音が楽しめました。モンテサント地下ホーム到着直前には2路線の間にマリア様か何かの結構大きな祭壇が見えたので乗り鉄の際にちょっと注目してみてもいいかもしれません。

 トンネルを出て振り出しのモンテサント駅に到着するとぞろぞろと頭端の出口に向かう風景は日本のターミナル駅と同じですが、流しのアコーディオン弾きが混じるところがヨーロッパらしいところです。見るたびそんなに商売になるのかと不思議になりますけれどいる以上きっとそれなりにはあがりがあるのでしょう。


 というわけで「結構高速の窓開けたまま釣り掛け音」「日本の私鉄にも似た丸っこい電車」といった要素が好きなら外せない路線です、というのはつまり私の好みですが、ナポリを見て死なないまでもナポリに来てよかったと思わせてくれる電車でした。


(2009年訪問)


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