国際寝台列車でヒルネ(ウクライナ→モルドバ)


 ウクライナのヴィーンヌィツャ(Vinnytsia)からモルドバのバルツィ(Balti)まで寝台列車で移動することにしました。お昼にヴィーンヌィツャ駅のホームで待っているとその区間を走るモスクワ始発キエフ経由キシナウ行きの列車が電機に牽かれてやって来ます。じゃ乗るかと思ったら真ん中を行き過ぎてホームの端に停まるので乗客は私を含め走るはめになりました。

 この列車はモスクワを19:59に出て翌朝9:17にキエフ着、ヴィーンヌィツャ12:35着、バルツィ20:38着と停まり日付がかわった深夜0:29にキシナウ着というダイヤです。ロシア・ウクライナ・モルドバと3つの国の首都を足掛け3日の1泊2日で結ぶわけですが今回乗る区間だと車中泊はありません。モルドバの客車による寝台車と食堂車の編成で座席車はないため寝台車を昼行利用するとなるとなんだか日本ではなくなってしまった寝台列車の昼行利用「ヒルネ」を思い出したりもするところです。


 扉では各車両に1人ずつの乗務員さんが迎えてくれるのですが、私の車両の担当の方はホームをウロウロしているイヌになぜか大変なつかれていてなんだか迎えられる側みたいにもなっていました。

 今回指定をとった車両は2等寝台(Kupe)です。2段寝台が向かい合う4人ごとの個室が並ぶので日本の寝台車だとカルテットやBコンパートが近いでしょうか。開放寝台の3等寝台(Platskart)も連結されていますが乗る区間や時間が中途半端なのでひょっとすると2等なら個室を1人で占領できるかも、というややセコい期待含みです。造花が飾られた通路を経て案内されたのはカラの個室で、幸いカンが当たり終始1人で使えました。リネンを渡されるので広げるとこれは文字通りのヒルネをしなければならないような雰囲気になり寝台を座席として利用する建前の日本のヒルネより本格的にヒルネっぽくなります。


 部屋の様子がわかったら昼食がまだだったので食堂車に向かいました。メニューはなく今できるもののみというのでともかくスープとサラダとメインになるものを出してもらうことにします。まず出て来たスープは骨付きの鶏肉が入っていてよくダシが出ていました。席には造花が飾られなかなか悪くない雰囲気です。


 パプリカとタマネギのサラダ、マッシュポテトの目玉焼き添えと出てくるとなかなかの量になります。車窓にはZhmerynkaの立派な駅舎が現れここで方向転換しました。車窓を見ながらゆったりと食堂車で食べるのは毎度いいものだとしみじみします。ただ昼どきなのにお客がずっと私1人だけだったのはちょっと寂しいものもありました。また深夜のキシナウ到着までまだだいぶ走るにもかかわらず食堂車の営業はこの昼どきまででおしまいというのでびっくりです。ということはモルドバの食堂車なのにモルドバに入る前に営業終了というわけですね。

 個室に戻ると上段に登るハシゴを出して見たり読書灯をつけたりと1人占めの気安さからつい意味のないことをしてしまい、納得したらせっかくリネンも広げたのだし満腹で眠くなってきたしで文字通りのヒルネの時間です。私は夜行列車はくたびれるのでなるべく避けてしまうのですが夜はちゃんと宿で寝た上で寝台でヒルネするとなるとこれはラクチンで捨てがたいものを感じます。そういえば今はなき「(寝台列車の)さくら」に乗った時も寝台列車らしい(?)夜より九州に入って明るい時間に寝っ転がってダラクできる楽しさの方が強く印象に残りました。(東京から乗ったので「いわゆる」ヒルネで乗るのではなく寝台券を買っていましたが。)「さくら」の場合は朝リネンを片付けた「座席」に寝っ転がっているというリクツにはなるので昼乗って夜には降りてしまうのにリネンを広げて寝る今回はよりダラク度が高いかもしれません。


 うつらうつらしているうちにウクライナ側最後の駅Mohyliv Podilskyiが近づき乗務員さんに起こされました。16:03着16:48発という長めの停車時間に出入国審査官が車内販売ならぬ車内出国審査に来るため予告というわけですが、となると個室でゴロゴロしているだけに自分ちに他人が来るような感じがして思わず居住まいを正してしまいます。無事パスポートに出国スタンプが押され発車するとすぐに国境のドニエストル川を渡ってモルドバ側最初の駅Valcinetに着き、同様に16:58着17:38発と長めの停車中今度は入国審査が行なわれ出入国が無事済みました。空港などの出入国審査と違い審査官の方が出前のようにやって来るとなるとこちらはただ個室にいるだけで別に何もすることはないのですが、終わればとりあえずホッとするものです。ちょっと暖かいモノでも飲みたくなり乗務員さんに紅茶を注文しました。紅茶はいつでも注文できるので「ヒルネ」と「走る喫茶室」が混ざっていると考えることもできそうです。


 紅茶を飲み終わって寝台にひっくり返っていると次のOcnitaに着きここでまた方向転換が行なわれます。そのため停車時間が17分ありホームに蒸機が置いてあるのが見えたのでちょっと降りてみました。出入国審査となれば仕方ないのですがあまり長く停まる駅が続くと飽きるのでこのくらいの停車時間が程よく感じます。

 機回しが済み逆の方向に走り出してしばらくすると黒ずくめの人がまた散らかっていたところに顔を出すのでギョッとしました。よく見れば聖職者の方が2人連れです。ともかくも挨拶するとなにやらお祈りののち小さなバケツから刷毛のようなものでバシャッと聖水をかけられました。車内販売とか車内出入国審査ならともかく車内聖水とは恐れ入りましたがそれだけ敬虔な乗客が多いということなのでしょうか。気になって隣の個室の様子を見に行ったら聖水を掛けられたあときちんといくらか献金を渡していました。


 徐々に暗くなり車窓が見えなくなってくるとゴロゴロしているのにも飽きてきたので車内をウロウロしてみます。と言ってももう閉まっている食堂車と3等寝台しか行くところもないのですが。3等は開放寝台で2等同様の横手方向の2段寝台の向かい合わせに加え通路を挟んで長手方向の2段寝台も配置されているのでなかなか壮観です。また寝台の下が物入れになっていたり長手方向の寝台は真ん中がテーブルになるなどカラクリめいた仕掛けがあってついいじりたくなるものがあります。私は寝台は横手方向より長手方向のものが好みということもありますが、別の列車でこの長手方向の寝台に夜乗ってみたところ寝心地自体はそれなりに悪くないと思いました。通路との仕切りがないので通行人の気配をなるべく感じないようにするのであれば窓側を頭にできる横手方向の方がよさそうですが。


 夜になって列車はバルツィの街に入りBalti Oras駅の暗いホームに降りました。駅前に出ても真っ暗というちょっと寂しいところです。ただ1km少々歩けば街の中心部に着け幸い雨もあがっていたのでそう困りませんでしたが。バルツィには長距離列車が停まる駅がここ以外にもう1つ(Balti Slobozia)あり、そちらは駅舎が大きく駅前ではトロリーバスやバスが発着し街の代表駅という感じです。


 という具合に寝台列車でヒルネしながら過ごしたら8時間乗りっぱなしでもさほどくたびれずに済み、昼間横になって移動するというのはラクでいいものだなあと改めて思いました。


(2017年訪問)


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