シレジア・ビトムの旧型トラム


 ポーランド南部からチェコにかけて広がるシレジア地方(ポーランド名はシロンスク)の一角にカトヴィツェ(Katowice)という都市があります。この一帯は鉱山が多いことから鉱工業で発達した都市が連なり、それらを結ぶ広大なインターアーバン・トラム網が存在しているというので乗りに行ってみました。


★ビトム

 と始めていきなり出鼻をくじくような話になってしまいますが、その広大なトラム網で活躍する車両は静かな高性能車(下・右の画像:ポーランド・Konstal社製の105Nが主力)ばかり。となると古い車両びいきの私はそれほどは乗りまくろうという気力がわかなかったりします。じゃなんで行ったのか、というとビトム(Bytom)という街に旧型車が走る系統があるというからです。

 さてその系統がどこか、というのを文字だけで説明するのは厄介なので下にビトムの路線図を貼ります。旧型車が走るのは赤い線で示した38系統です。(路線図はこのコンテンツに関係する系統のみ記載。ビトムを通る系統は他にもあります。)


★旧型車

 ビトムにはトラム運行の要になっている停留所「Plac Sikorskiego(上の画像:105Nが溜まっている場所)」がありここを多くの系統が経由しています。しかし乗ろうという38系統は出入庫便以外ここを通らず、また他の系統と直接乗り換えられる停留所もないという離れ小島のような系統です。Plac Sikorskiegoから単線のレールをたどり分岐点から出入庫線に沿って進むと38系統の南端、Kosciol sw Trojcy停留所(下の画像)がありお目当ての旧型車KonstalNという2軸の単車が停まっていました。

 角ばったあっさり目のスタイルで、台車にくらべ車体の前後がずいぶんと長くはみ出している感じがします。元々ドイツで第二次世界大戦中に行われた設計を戦後ポーランドのKonstal社が流用したとのこと。あっさりしている理由は戦時設計にあるのかな。


 幅の広い乗降扉(手動)の戸袋は運転室脇に延びています。運転台は左側がコントローラで右が手ブレーキ。電制がついているので停まるときはコントローラを逆回しします。また停車して転動しそうなときは手ブレーキを締めていました。ということは空気ブレーキがないのでちょっとびっくりです。さらに足で踏む電磁吸着ブレーキもついています。運転台に置かれた小さな椅子は使うときもあれば立ったままだったりで運転士さんの気分次第。

 客室は台車の上が一段高くなっていてそこに木製のベンチ状ボックスシートが並んでいます。停車時に引くベルの紐も延びていてなかなかいいムード。柱についた切符の自己改札器は単純に穴を開けるものです。(他系統の車両についている自己改札器は日付・時間を印字するもの)


 38系統は単線1.3km、間に3つの停留所をはさむ併用軌道の棒線を行ったり来たりするだけのささやかなものです。意外に少なくない乗客と一緒に揺られてみると釣り掛け音をたて小気味良い加減速をする乗り味がステキでした。たった5、6分で着いた終点のPowstancow Slaskichがこの画像で、末端はごくあっさりした行き止まりで終わっています。他の系統は片運転台の車両がループで折り返すのが基本ですが、38系統はこのようにループがないので両運転台の車両が使われているというわけです。


★夜の入庫便

 日中は短区間をずっと往復しているこの単車が隠していた(?)実力を見せてくれるのが出入庫便です。枝線の38系統が他線とつながる分岐点は単線の一方通行で、一度スイッチバックをしてから車庫に向かいます。

 出入庫便は車庫まで全停留所に停車し必要な乗車券は通常系統と同じなのですが、停留所で待っている乗客は見慣れない車両に怪訝な顔をしたり「これ乗っていいの?」と運転士さんに聞いたり。日常に紛れ込むちょっとした非日常、という感じがして面白いものです。

 暗くなってからの入庫便というのは日本のバスなんかでも飛ばしがちなのと同じで、ここでも車庫までは思い切り飛ばします。幸い専用軌道がほとんどなので遠慮がありません。電灯に照らされた車内、足を踏ん張ってコントローラを握る運転士さんの後姿、かなりの揺れと走行音、後ろに飛んでいく夜景…素晴らしく楽しい時間を20分ほど過ごして車庫前の終点Stroszek Zajezdniaに着きました。

 ねぐらに入っていく単車を見送ってから周りを見ると集合住宅の建つひっそりしたところで特に何を見物するという感じでもありません。静かな車両の105Nに乗ってビトムの街中にとんぼ返りし私もねぐらのホテルへ向かいました。


★朝の出庫便

 入庫便が大変楽しかったので、今度は明るい時間に専用軌道を味わいたくなり翌朝また車庫前に向かいました。改めてみると車庫の入口に架線作業車が静態保存されています。芝の緑が映えるなかで待っていると昨晩と同じ単車が登場。


 この日の運転士さんはコントローラにカバーをつけていました。こういうの日本でも時々見かけますね。改めて明るい専用軌道を見ると単線区間もあってなかなか変化に富んでいます。朝のさわやかな緑の上を飛ばすのも気持ちのいいもの。


 ビトムの街中に入ると一方通行なので遠回りし(経路は路線図参照)Plac Sikorskiegoを経由して昨晩の入庫便がスイッチバックした分岐点に着きました。ここで一度停まり運転士さんが降りてポイントを切り替えます。


 なにやら工事をしている出入庫線を通ったら「仕事場」のKosciol sw Trojcy停留所に到着。降りたら「今日も一日頑張って」とつい心の中で声援を送ってしまいます。昼・夜・朝とたっぷり楽しませてくれた単車に感謝。


■(おまけ)広島・高知の電車 このビトムの車両と同様にドイツの戦時設計の影響を受けた車両

■シレジアのトラム公式サイト


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