ドウロ川と狭軌線(前編)代行タクシー


 ドウロ川はスペインに水源をもちポルトガル北部を東西に横断してポルトで大西洋に注ぐスケールの大きな川です。流域にはポートワイン・ドウロワインの原料になる葡萄畑が広がり、その景観は世界遺産に指定され多くの観光客を集めています。このドウロ川流域の鉄道に乗ってみることにしました。


 出発はポルトの街中にあるサン・ベント駅(Porto Sao Bento)です。ポルトガルの歴史を描いた華麗なアズレージョ(タイル)で飾られた駅舎は大変美しく行くたびに私のみならずカメラを向ける人が見られました。こんな立派な駅だとここから遠くに行く列車に乗りたいと思ってしまいますが、残念ながら現在リスボンなどに向かう長距離列車はほとんどが隣のカンパニャン駅(Porto Campanha)で発着しサン・ベント駅で発着するのは主に近郊電車です。

 この駅はトンネルを出てすぐの頭端式ホームなのでスケールは小さくなりますが井の頭線の渋谷駅やナポリのこの駅を思い出したりもします。近郊電車に混じってこれから乗るポシーニョ(Pocinho)行き592形気動車もトンネルから出てきました。ポシーニョはドウロ川上流に向かって走るドウロ線の東端で、乗り通すと所要時間は約3時間半に及び派手さはありませんがサン・ベント駅発着の列車としては長い方です。


 この気動車はスペインからの中古で、InterRegionalという普通・快速くらいにあたる列車ながら空調完備で固定窓、掛け心地の良い転換クロスシートの頭部には使い捨てのカバーが掛けられ急行〜特急くらいの雰囲気があります。私はこの路線に乗るのは2回目で、前回乗ったときは非冷房・ボックスシートのステンレス気動車600形だったのですが既に引退してしまいました。冷房が付きボックスシートが転換クロスになったとなればだいぶサービス向上ということになる一方、この変化がことこの路線の場合「乗り鉄」の楽しみに致命的な(?)打撃を与えたことをこのあと徐々に思い知ることになります。

 では発車です。サン・ベント駅を発車すると隣のカンパニャン駅まで少しだけドウロ川北岸を走ったあと一旦ドウロ川から北に離れ、小駅は通過する快速運転で1時間半ほど走ってからJuncalとPalaの間(右の画像)でドウロ川に再開します。峠越えの後にパーッと景色が開くので大変爽快なところなのですが開けられない窓のガラスにやや色がついていると隔靴掻痒で表の空気も吸えません。


 ポルトガルの駅らしくアズレージョが映えるRede駅でのんびりした交換風景を見て機嫌をなおしたものの、レグア駅(Regua/右側の画像の駅舎)では暗転します。レグア名物はホームの飴の立売で、駅弁のように窓を開けて買えるうれしい駅だったのですが窓が開かない車両ではそれができません。仕方ないので扉まで出向いて買うことになります。

 急に話が飛びますが妙な偶然というのか台湾の東部を走る台東線の名物池上駅の駅弁も電化に伴うステンレス気動車DR2700の引退で窓を開けて買えなくなってしまったのを思い出しました。ひと袋1ユーロの飴はべっこう飴のようなホッとする味のもので、窓を開けて買えなくなったのは残念ですが立売はいつまでも続いて欲しいものです。


 飴玉をなめながら眺める車窓は(たぶん)ポートワインやドウロワインになる葡萄の段々畑が続きます。まだ芽吹いていないのでやや荒涼とした雰囲気ですが枝葉が伸びると緑が映えることでしょう。交換駅のトゥア(Tua)で今回は降りました。


 ホームに出ると小ぶりな蒸気機関車や客車が目に入るのはかつてここから狭軌(1000mmつまりメーターゲージ/ドウロ線などポルトガルの鉄道の標準軌間は1668mm)の「トゥア線」が出ていた名残です。ポルト方に赤く錆びた廃線が延びていました。


 トゥア線はトゥアからドウロ川の支流トゥア川に沿って北東に向かいミランデラ(Mirandela)を経てブラガンサ(Braganca)まで達していた路線で、大部分は廃線になったもののミランデラ近郊の区間だけ生き残り旅客列車が運行されています。トゥアからそのミランデラまでは代行バスならぬ代行タクシーが1日2往復出ているので乗り継ぎました。乗客は私だけで発車した代行タクシーはトゥア線跡に併走する道路がないためかなりの遠回りをしながら何度か駅跡付近に寄ります。


 トゥアから約1時間半の道中で私以外に5人の乗客を拾って終点のミランデラ駅前に着きました。ミランデラ駅は長距離バスターミナルと一体になっています。ポルトのサン・ベント駅からここまで4時間25分、一方バスはポルト〜ミランデラを2時間5分で結んでいますからポルトからわざわざ列車と代行タクシーを乗り継いで来るのは乗り物好きか「乗り」を抜いた物好きくらいでしょう。すぐ近くに見える旧ミランデラ駅舎は堂々たる建物ですがややくたびれた様子でした。ここからトゥア線の列車に乗ります。


 つづきの中編はこちらです。


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