古典レールバス(ドラキュラご近所編)


 ルーマニアには気動車を中心にヨーロッパ各国から中古車が大量に入っていますが、大昔のMalaxa社製国産車2種も負けずに活躍しています。一つはこちらで紹介したボギー車の流線形78形で、もう一つは2軸の年代ものレールバス77形。製造初年が1935年といいますからかなりのご老体ということになりますが小回りのきくボディーを活かしローカル支線や小運用で頑張っています。

 この項ではルーマニア北部のスチャヴァ県(Suceava)西端にあるヴァトラドルネイ(VatraDornei)という町を根城にしている77形の画像を紹介しますのでおつきあいください。 


★2つある駅

 ヴァトラドルネイの町には2つの駅があります。ひとつは東側にあり単にヴァトラドルネイ駅という名前の駅で、もうひとつはヴァトラドルネイバイ駅(Vatra Dornei Bai)と名前にオマケがついている西側の駅、前者の駅には側線があり運転上の主要駅ですがやや町はずれ、後者の駅は単線に片側ホームがくっついた駅ですが町の中心にあり人通りが多いという違いがあります。両者は1km程度しか離れていないので歩いてもたいしたことはありません。

 さてまずはヴァトラドルネイ「バイ」駅の画像を貼ります。この辺りは山に囲まれた風光明媚なところでスキーに登山ハイキングなんかも楽しめる観光地になっているため「バイ」駅前をはじめ周辺にはホテルやペンションがいくつもあります。また列車到着後には貸し部屋の客引きも来るほどで宿には困りません。駅舎もそんな町の雰囲気によく似合うとんがり屋根のオシャレなものです。

 ホームには常時出っ放しの水場がありペットボトルに汲んでいる人が時々目に付きました。ここヴァトラドルネイは湧き水が名物なのだそうで駅の南側にある公園に行くと有名な湧き水場があります。そちらに行くと大きなボトルをいくつも持って汲む人が集まっていました。駅の水飲み場はさすがにただの水道水だろうと思うのですが駅の水場で飲み水を汲む習慣があること自体面白く感じます。


★ヴァトラドルネイ駅

 ヴァトラドルネイ「バイ」駅前に着いたのは夕方。適当なペンションを選んで荷物を置いたあと歩いてヴァトラドルネイ駅を見物しに行くことにしました。線路沿いに道が続いているので途中特に迷うところもなく、バイ駅から離れるとスーパーや団地も見えごく普通の地方の町といった雰囲気になります。そのうちに線路がポイントで分かれ山裾に広がるヴァトラドルネイ駅に到着しました。どこで飼っているのか知りませんがニワトリがウロウロしています。

 

 ここでの目当ては翌朝乗る予定の古レールバス77形を見物することです。構内を見渡すと派手な塗装ということもありすぐに見つかりました。カワイイスタイルを見たらすぐ乗りたくなりますがまずはガマン。その辺にいた職員さんに構内を歩き回っていいか聞いたらいいよとのことで、明日この77形に乗ると言ったら「こいつはガッコンガッコンすごく揺れるんだぞ」と笑われました。77形の足元をのぞいたらなるほど、なんだか貨車の足回りに動力がついたような感じです。

 側面から見ると模型にしたら小レイアウトに向いていそうな雰囲気。客室は前後2室に大きく分かれていて、片方の側面にだけある中扉は機器と業務スペース用のもので客扱いには使われません。

 前後の扉があるデッキ部分にはシャッターが下ろせる運転台がついています。前位になると客室扉を閉め切ってデッキ全体を運転室とし、後位は運転台のシャッターを閉め客扱い用の扉・デッキとなる仕組み。小さなスペースを合理的に使おうという工夫が面白く感じられます。

 

 見物を終えたら宿に帰り早寝をして翌朝の乗り鉄に備えます。


★早朝の乗り鉄

 ではその77形に乗り鉄します。ヴァトラドルネイにいる77形の運用はヴァトラドルネイからしばらく西へ向かう幹線筋(と言っても単線の電化)を走ったあとFloreniというところで枝線(非電化単線)に分かれドルニショアラ(Dornisoara)という山間部の終端駅までの往復で、平日のみ早朝と午後1往復ずつの設定です。早朝の1往復だと往路は日の出前になり乗り鉄には暗く厳しい時間なので午後乗りたいところですが、余裕のない旅程だったのであきらめ早起きしとんぼ返りの往復乗車をすることにます。

 ところでCFR公式サイトで検索するとこの早朝便はヴァトラドルネイバイ駅4:22発と出てくるのですが、実際に訪問すると駅の時刻表には4:49発と表示されており実際に来た時間も駅の時刻表通りでした。末端になると公式サイトでも情報をカバーしきれないことがあるのか単なるミスなのかはわかりませんけれども。 

 さて宿はヴァトラドルネイバイ駅のすぐ近くなので歩く距離はわずかですが、外に出たとたん寒くて驚きます。訪問した9月半ばは昼間は半袖でも過ごせるくらいだというのに夜明け前は10℃を切るほど。セーターとウインドブレーカーを着ても震えるばかりでした。窓口は既に開いていたので切符を買いやってきた77形に乗り込みます。左下の画像を見て頂くとわかるように前方の室内にはなぜか室内灯がついていないため真っ暗でした。しかしその方が暗い車窓が見やすいのでこちらは助かります。ただ前日予告されたとおりの揺れにうれしくはなりますが山に入っていく路線なので明かりが少ない夜景はいまいち様子がわからず、そのうちエンジン音を子守唄にうとうと。そのまま山間の森林を登り終点ドルニショアラに着いてしまいました。6時を回っても辺りはまだ真っ暗ですが、一応近所に集落はあるようで折り返し列車に乗る人がパラパラとやって来ました。


 折り返し作業後運転室になったデッキの様子。かなり手が入っていて古さを感じさせません。コンパクトさは路面電車に通じるものがあります。

 辺りはまだ暗いまま6:30に折り返し列車として発車、帰路はひたすら下るばかりです。結構勾配がありブレーキを緩めるとすぐにスピードが上がってしまうため運転士さんは40km/hを越えないよう延々とブレーキ操作を繰り返さなくてはなりません。暗い中2軸のガッコンガッコン激しいジョイント音と揺れ、エアーの音がひたすら続きます。大きな二枚窓で前面展望は悪くないのですが温度差で水滴がひどくつくため時々拭きつつ絶え間ないブレーキ操作ということになり何とも大変そうでした。


 同じリズムの中暗い針葉樹林をずっと見ていると帰路ながらどこにつれていかれるのかという気分になってしまいちょっと不気味です。ちなみにかの小説「ドラキュラ」でドラキュラ城はボルゴ峠(Borgo)の近所という設定なのだそうですが、その峠に一番近い鉄道はこの路線だったりします。ということはこの列車ドラキュラさんちに最も近いところを走る列車ということになるわけ。ひょっとして半分室内灯がついてなかったのはドラキュラが乗っていたからかな。地図を見るとボルゴ峠は県境になっていて歴史的な地方境界もブコヴィナとトランシルヴァニアの境目付近ということになり怪しげなものを設定するにはちょうどいい感じです。

 徐々に夜が明けてきたのでドラキュラはさておくとして、今度は朝霧が酷く先が見えません。大き目の踏切では警笛を鳴らしそろそろと徐行で通過します。


 Floreniから幹線筋に戻る頃には明るくなり徐々に霧も薄く穏やかになってきます。とは言えクルマが通る道でも遮断機や警報機がない第4種レベルの踏切があるので油断なりません。ちなみに一応幹線筋とは言ってみたものの曲線が多く人家の裏や道路の脇といったようなところも通っているのでこのレールバスならまだしも電機牽引の重い列車となるとさらに気をもむ場面が出てきそうです。


 7時半を回り明るくなったヴァトラドルネイバイ駅に戻ってきました。ここで乗客の大半が降り77形もやれやれという風情。朝早くからハードな上り下りをこなしてご苦労様です。こちらは宿に戻ると朝食の時間。文字通り朝飯前の楽しい乗り鉄でした。


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