ルーマニア北東部のフランス気動車


 モルドバ・ウクライナと国境を接するルーマニア北東部の地図を見ていたら、主要都市ヤシ(Iasi)からドロホイ(Dorohoi)、レオルダ(Leorda)という順にモルドバ国境と15〜20kmくらいの距離で併走しながらルーマニアの端っこをぐるっと回り込み、ボトシャニ(Botosani)という都市に続いている非電化路線群が(ローカル乗り鉄好きの目には)なんとなく目につきました。時刻表を見てみると直通はなく、154kmを4時間で走る長丁場の鈍行の後さらに鈍行2つと乗り継ぎいでいくことになるので面白そうな感じです。またボトシャニ付近には旧型車も運用に入っているようなのでそれならと乗ってみることにしました。


★ヤシ

 スタート地点になるお昼前のヤシ駅です。朝少し市内で乗り鉄・乗りバスしてから11:38発RegioTrans運行のドロホイ行きに乗りにいきます。ヤシ〜ドロホイは1日5往復とそう多くはありません。長距離列車が発着する通過式ホームがいくつも並ぶ駅のはずれにある頭端式ホームから出るので支線ムードが漂っていました。

 車両はフランスから来たCaravelle(カラベル)という愛称を持つ一連の形式の中古気動車です。この車両はルーマニア全土に運行路線を持つRagioTransという事業体の主力車両として97形・57形という名で活躍しています。


 ルーマニアの端っこにあるローカル線だからまあ空いてるだろうとたかをくくって発車ギリギリに乗り込むと意外なことにほぼ席が埋まり立ち客も出る盛況ぶりでした。なんとか奥のボックスに空席を見つけ腰掛けます。駅に窓口はあっても無札で乗る人が結構いるようで発車すると車掌さんは補札売りに大忙しでした。ふと座席を見るとあちこちツギがあたっています。ルーマニアの鉄道ではこうしたツギをよく見ましたがほったらかしではなくマメに補修が行われている証拠ですから見ていてむしろ気持ちのいいものです。

 ヤシの市街地を抜け車内が落ち着いてくるといつとはなしに酒瓶が回り始めラッパ飲みとあいなります。お前さんもまあ飲め、と突き出されるのがブランデーと来ていますから怖気づきました。幸いというのかアルコール度30度とブランデーにしてはアルコール度が低めだったので飲みやすい方にはなりそうですが。

 ブランデーが空くと今度はでかいワインの栓が空けられどんどん飲めと来ます。甘く飲みやすい味ではありましたがブランデーから続けて飲んでいるとアルコールに弱いこちらはさすがに出来上がってしまいました。この頃になると車内のどこも座がほぐれにぎやかになり、乗り鉄は一時お預けで(乗っていますけれど)飲み鉄が続きます。


 一旦はにぎやかだった車内も行程を半分以上過ぎる頃までに大半の乗客が降り、先ほどまでの騒がしさがウソのようにがらんとしてしまいました。車窓は車内の様子と関係なくずーっと緑の平原と丘が続くばかりです。小さな駅にたまに停まってはのんびり進んでいきます。

 座席は2列+3列のボックスで、窓は片側(画像の3列側)だけ開けられるという妙な構造になっていました。冷房はないので窓が開かない側の人は暑くても窓を開けずに耐えるということになってしまいます。

 野良犬が多く目立つルーマニアですがネコちゃんが乗ってきました。列車に慣れていないようで始終ニャーニャーと不安そうです。連れているお姐さんがいい子いい子となだめます。少なくなった退屈気味の乗客たちはみんなわあカワイイとニコニコ顔でした。

 交換駅のUngureniのホーム上に見える屋根付きのものは井戸です。ルーマニアのあちこちのローカル駅でこのような現役の井戸が見られました。


 ルーマニアでは馬車が日常的に使われています。駅では馬車で送ってもらっている家族連れも見えちょっとうらやましくなりました。当然荷物も運ぶので日本の田舎における軽トラを思い出します。もっとも今は(日本の)田舎でもさすがに目立つところで荷台に乗るわけにはいかないでしょうけれど。

 警笛が鳴って急停車するので何事かと思ったら犯人は馬でした。しつこく警笛を鳴らしてもなかなかどかずマイペースです。馬は敏感な動物だといいますがこんな図太いヤツもいるのですね。こういうことは結構あるのだそうです。

 前方に様子を見に行ったついでにかぶりつきをしました。たまに馬が通せんぼする広い平原が続くなか長時間運転する運転士さんも大変です。運転室内に謎めいたペットボトルが見えたので何かと聞いたら自家製の蜂蜜とのことでした。飲んでみ、というので遠慮なくラッパ飲み(ラッパ舐め?)させてもらったところさすが自家製だけあり香りのよい美味しい蜂蜜です。これなら運転の合間でも手軽にエネルギーの補給ができるわけで上手いものを準備してるもんだなあと感心しました。蜂蜜をおやつに前面展望を楽しんでいたら糖分のおかげかどうやら酔いもさめてきてやれやれです。


★ドロホイ

 そんなこんなで長丁場も終わり、モルドバではなく今度はウクライナとの国境まで20kmほどのところにあるドロホイに15:43に到着しました。緑に塗られたやはりフランスからの気動車がエンジンを掛けて待っています。これが乗り継ぐレオルダ行きです。同じRagiotransのカラベルシリーズ気動車でも画像のように赤・青・緑3種の塗装を見かけ顔のデザインも2通りあって混結もされていました。

 レオルダ行きは15:46発とすぐの発車です。ドロホイ〜レオルダ間21kmは1日3往復とぐっと少なくなる閑散区間でこれが本日の最終列車ですが45分弱の乗車中は終始ガラガラでした。


★レオルダ

 車窓の雰囲気は先の長丁場列車とさして変わりません。腕木が見えたら終着のレオルダに16:29に到着です。日除けに葡萄が這わされ実もなっていたステキな駅舎(右画像)は残念ながら使われておらず、画像右下に見える水色のハコがCFRの乗車券窓口として使われています。駅前はカフェというかバーというかが1軒あったくらいで他に店は見当たらず閑散としていました。

 駅舎に入れないのでホームで時間をつぶすことになります。やがてルーマニア西部ティミショアラ(Timisoara)までこれから15時間・754kmを走るボトシャニ始発の夜行列車がやってきました。人数は少ないものの荷物は大きめの乗客がささやかなホームから高いステップを上がっていきます。こういう小駅からこんな長距離列車が出ているというのはなんだか頼もしいものです。

 やがてこちらが乗るボトシャニ行きの流線形気動車が単行でスチャバ(Suceava)からやって来ました。この列車は17:14発でCFR運行の鈍行です。パンチューでも乗りましたがこのスタイルは何度見てもうれしくなります。


★ボトシャニ

 レオルダからボトシャニまでは途中駅がなく15km走りっぱなしで、17:38に枝線の終点ボトシャニ駅に着いたらこの日の乗り継ぎはおしまいです。文字通りの牧歌的な風景が続く地味な路線が続きましたが酔っ払って風に当たりのんびり乗るのはなかなかいいものでした。 


※残念ながら2015年にドロホイ〜レオルダの旅客列車の運行はなくなりました。


(2010年訪問)


景色は乗った後に(表紙)ルーマニアもくじ>このページ

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