ブエノスアイレス地下鉄A線(前編)


★A線の旧型車

 私はおもてが見えない地下鉄にはそれほど乗りたいと思わないタチですが、ブエノスアイレス地下鉄A線は別格。1913年開業以来の木造車、すなわち100歳近い電車が大都市の地下をごく普通に走っているなんて全く信じがたいものがあります。私がそもそも南米に行きたくなった最大の理由はこの地下鉄があるからでした。

 まずは下の画像左からご覧下さい。この旧型車がA線最大勢力の両運転台車で5両編成を組んでいます。右も一緒に編成を組む旧型車ですが丸妻で側窓にRがない点などが違い、見た限り先頭に立たず中間に入っていることが多いようでした。

 古い地下鉄ですが第三軌条式ではなく架線集電です。とは言えトンネルを大きくしたくはないでしょうから見上げればこの通りパンタはぺっちゃんこ。下に目を移せばなかなか優雅な造形の台車が目に入ります。ブレーキシューがなんと木製だというのもすごい話。


 では乗り鉄をしましょう。古めかしい駅と切符売り場がいい味出していますが、車両や施設は古くても自動改札機は新しいものでした。磁気券か非接触式カードで入場し出るときはフリーというシステムで、使用済みの磁気券は回収されず戻ります。

 出るときには改札の必要がないため、トークン時代から使われていた古い青い改札機(と言っても改札はせずただバーが一方向に回るだけですが)がまだたくさん活躍していました。


★車内

 白熱灯が木のぬくもりと調和しなんとも素晴らしい雰囲気の車内。ちょっとラテンつながりでミラノの路面電車を思い出します。陰影礼賛なんていうけど、たぶんそういうのに似た感覚って日本だけじゃなくて世界中にあるのでしょうね。優雅な内装だとくっつく2人もよりカッコいいもの。ラテンのカップルはくやしいけどサマになります。

 ドアは閉まるときだけ自動の半自動。走り出してからガッチャンとかなり派手な音をたてて閉まります。

 駅到着時は停車前にドアエンジンのエアを抜くので乗客は各自動いているうちからドアを開けスピードが落ちたのを見極めたら飛び降りていました。

 戸袋窓の外側は見る限りどの車両もふさがれていましたが車内側は鏡や路線図などさまざま。そのほか車両ごとにあちこち手作りで修繕を繰り返した跡がありいろいろ細かな差異を見比べるも楽しいものです。


★運転室

 車端部に行ってみます。運転室は左隅に寄っていて非常にコンパクト。運転室の脇は客室ですが車内を向いた席がくっついているので誰かが腰掛けているとかぶりつきがしにくくなってしまうのが乗り鉄としてちょっと残念なところです。

 左下の画像、上方真ん中に光るのは前照灯兼室内灯です。右はその拡大画像。車端に電球を下げ丸いガラス窓を開けただけの簡素なものですが、室内灯と前照灯を一緒にしてしまう合理的な発想に感心しました。

 運転室は開けると下の画像のような感じ。この後添乗させていただきましたがご覧の通りのスペースですから大人の男が2人入るとかなり窮屈でした。車掌さんは当然と言うべきかこの運転室には入らず、画像のように先頭車両の客室にいます。中ドアを使ってドア扱いをしている様子を見てちょっと名鉄のローカル区間を思い出しました。 

 では以下運転室からの画像をお送りします。運転台は日本の電車と同じ左通行左運転台に左マスコン右ブレーキなのでなじみやすい雰囲気でした。エアを抜きつつAEGの文字が入ったマスコンを回すとかなり鋭く立ち上がります。

 かぶりついてもずっとトンネルですが(地下鉄だから当たり前ですけれども。)結構あちこちに側線があるので目を奪われました。トンネルの天井には明かり取りの金網が多く見えます。地下と言っても浅く、また駅間隔が短くホームから隣の駅ホームが見えている場合も少なくないので路面電車に近い印象を受けました。実際かつては併用軌道区間もあったそうですし、現在も車庫線は併用軌道なので車庫入れの際は路面を走ります。(車庫線の画像は後編にて。)

 ホームに差し掛かりブレーキが入ると木製のシューが摩擦熱で焦げる匂いが漂ってきます。木製シューだからなのか独特の不思議な柔らかい減速感が何とも面白いもの。長年にわたり人の手が加わり続けてきたアナログな車両とそれを自在に操る運転士さん、このぬくもりにあふれた地下鉄が2010年にごく当たり前の日常として生きているうれしさ、乗り鉄冥利に尽きます。


 さて都心側から乗ってくるとA線の終点はこのCarabobo駅。この末端Primera Junta〜Carabobo間は2008年に開業したばかりです。こんな新しいトンネルや駅に古い電車がやってくるミスマッチがまたたまりません。私にとって幼馴染みたいな丸ノ内線の中古が走る隣にはこんなスゴイ車両が走っていて…それこそ夢の世界としか思えない現実がブエノスアイレスにはありました。


★その他の車両

 旧型車の凄さに目を奪われ他の車両は霞がちですが一応画像を並べておきます。この灰色の車両は旧型車の車体だけ載せ換えたというもの。この通りあっさりした見た目のハコですが乗り心地は楽しめます。


 こちらはチョッパの新車。新車といっても1980年から入っているそうですからもう30年選手になります。ちゃんと乗務員室と乗務員室扉がありこうなるとごく普通の(?)地下鉄といった感じでしょうか。


 以上旧型車を中心に一通りA線の車両を並べてみました。後編ではA線車庫の併用軌道と保存路面電車の様子を紹介します。

■(後編)車庫と保存路面電車


景色は乗った後に(遠距離館)アルゼンチンもくじ>このページ

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