現役のスラムドア気動車


 イギリスの鉄道で長らく使われてきたものにスラムドア(Slam door)があります。slamはバタンと叩きつけるように閉めること、つまりそういう閉め方をする重い外開きの手動扉のことです。

 この「スラムドア」には狭義もあり、各ボックスシートの間にこの手動扉が配置されている車両の様子を指します。馬車から続く流れを思い起こさせるこの種の車両は側面にズラリと扉が並び壮観ですが、さすがに今の時代には合わなくなったと見え保存鉄道以外ではほとんど姿を消してしまいました。それでも一般路線でこの(狭義の)スラムドアを持つ気動車が日常的に運行されているところがまだあるとのこと。足場も悪くないようなので乗りに行ってみることにしました。


★Princes Risborough駅

 ロンドンのMarylebone駅でChiltern Railwayという非電化の鉄道に乗り、40分弱でPrinces Risboroughという駅に着きます。あまり何もないような駅前にはパーク&ライド用の駐車場が目に付くくらいでした。この駅からAylesburyまでを結ぶ、Chiltern Railwayの支線でスラムドアの単行気動車Class121(1960年製)が運用されています。この支線は駅本屋に突っ込んで終わる1番線から発着するというので待っているとお目当ての気動車がゆっくりとやって来ました。

 客用扉は片側に6つついてはいるものの、こういうのって6扉気動車と言っていいのかな…?伸びる排気管が触角のようにも見え、ズラリと並ぶ扉や単行の印象と相まってまさにイモムシだかアオムシという感じがします。(現地での愛称はBubble Car)


 外観は昔の塗色が施され動態保存の意味を持ちつつも、一般の営業列車に使うだけあり車内は大変キレイに更新されています。とは言え特徴的な扉と座席の関係はそのままなのでミスマッチというべきなのでしょうが、慣れないよそ者の役得で逆にものすごく斬新に見えたりも。


 車内にはちゃんとこの車両用の非常時の案内が貼ってありました。各座席ごとに非常口があるようなものですから万一の時はすぐ逃げられます。なので大変安心と言えるのかも。なお扉には安全面を考慮してか車内側にも扉を開ける金具がついていましたが、固くて開けにくいので降りる乗客が手間取っていました。スラムドアというのはもともと内側からは開けられず、扉の窓を下げ外に手を出して外側の取っ手をひねって扉を開ける、という手順のものですからこれだと慣れないということもあったりするのかな。

 さて扉が眼目の車両なので駅で扉を開け閉めしたりその様子を見たりがまずは目的と言えそうですが、扉を挟んだ座席に腰掛けて見る車窓というのはなんだか違った感じがするもので、そもそもが古めの気動車ですから乗り鉄もまた楽しいものです。羊や野原の広い景色を約20分ばかり眺めて支線のもう片方の端Aylesbury駅に着きました。


★Aylesbury駅

 AylesburyにはMarylebone〜Princes Risboroughを走る系統とは別のChiltern Railwayの系統がMarylebone駅から来ているほか貨物列車も見られまた本線筋に戻ってきたという感じがします。保存鉄道でもないのに「きかんしゃトーマス」状態にされちゃってるのはさすが本場(?)。

 側線に目を移せば従来の塗色のままでややくたびれ気味のClass121が側線で休んでいました。乗ってきた列車は短い支線を往復する運用らしくあまり間をおかずに折り返しPrinces Risboroughに戻っていきます。こちらはそれを見送ってロンドンに戻りました。

 そんなわけで地味な支線でしたが、ロンドンから手軽に足を伸ばせるところでこんな車両に乗れるのですからうれしいもの。末永い活躍を願ってやみません。(2011年訪問)


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