HSTとグレートウェスタン鉄道博物館


 イギリスには非電化で時速125マイル(201km/h)を出す高名な「HST(High Speed Trainの略、ってそのままな名前ですね。InterCity125とも。)」が走っています。これに乗ってロンドンの西、スウィンドン(Swindon)にあるグレートウェスタン鉄道博物館(別名STEAM・公式サイト)に行ってきました。


★パディントン駅

 ロンドンからスウィンドン方面に向かう列車を運行するファーストグレートウェスタン(First Great Western)のターミナルはパディントン(Paddington)駅です。この駅名は特に鉄道が好きでなくとも聞き覚えがあるはず。

 この駅が名前の由来になっているくまのパディントン、すなわちパディントンベアを本場中の本場(?)で買うことができます。

 さてクマ方面に用があるわけではなく乗りに来た私は切符を買わなくてはなりません。都合のいいことにパディントン〜スウィンドン間の往復切符に博物館の入場券がセットになった切符があったのでそれを買うことにしました。


★HST

 ではHSTに乗り鉄。列車は両端がディーゼル機関車(Class43)のプッシュプルで、間にMark3という客車を挟んでいる編成です。パディントン駅からはHSTを使用した列車が頻発しているので頭端式のホームに何編成も並んでいるのが見えます。

 この車両は1975年製造初年とあまり古くなく客車では静かそうですから乗っても消化試合になるかもと思っていたのですが、現物を見たらこりゃスゴイと感心してしまいました。

 なぜかと言うと、200km/hを超えるこの列車の扉がいわゆるスラムドア方式の手動だったから。扉の取っ手は外側にしかついていないので、降りるときつまり車内から扉を開けるにはまず窓を下に降ろし、開けた窓から手を伸ばして外側の取っ手をひねらなければなりません。走行中はさすがに自動で鎖錠されていましたが、手動ということはそもそも閉められた状態でなければ鎖錠できませんので、もし発車する段になって開いている扉があったらホームの駅員さんが閉めに走ることになります。

 車内から扉を開けるには必ず窓を開けなければならない構造なので多くの窓は適当に開けっぱなしということになります。ということはデッキにいれば車窓を「直に」味わうことができるというわけ。高速になってもそれほど風は入って来なかったのでなるほどそんなに問題なさそうだとは思いましたが、対向列車とのすれ違い、踏切、柵もないホームの通過と日本だと在来線の感覚なのに全く違う速度を直に味わえる迫力と爽快感には想像以上のものがありました。それにしてもこの速度の車両でも自動扉にせず旧来のままでいくという発想って保守的なのか清々しいのか、ともかく面白く感じます。

 ただ動力のない客車なので固定クロスに固定窓の静かな客室にいてはちょっとイマイチ。なのでずっとデッキに陣取りのどが渇いたら暖かい飲み物を買って、と過ごしました。


 

 そんなわけで車窓を飽かず眺め楽しい立ちっぱなしの1時間弱が終わりスウィンドン駅に到着。スウィンドンはかつてグレートウェスタン鉄道の大きな工場が置かれていた鉄道の町で、駅前にその名も「GWホテル」があったりパブにはグレートウェスタン鉄道「GWR(Great Western Railway)」のマークが見えたりでさすがという雰囲気です。この駅からグレートウェスタン鉄道博物館までは歩いて15分くらい、工場の跡地を一部利用したもので、その跡地はショッピングモールにもなっています。


★グレートウェスタン鉄道博物館(STEAM)

 グレートウェスタン鉄道はロンドンからここスウィンドン、さらに西方に路線網を広げていた鉄道で、創立期に指揮をとっていた技師ブルネルの大胆な発想により2140mm(7フィート1/4インチ)というまさに広軌というにふさわしい軌間を採用して1838年に開業しました。(この軌間は日本の在来線狭軌1067mm=3フィート6インチのほぼ倍。ブルネルの当初の計画は7フィートだったものの後に1/4インチ分余裕を持たせたとのこと。12インチ=1フィートなので当初の計画だとサブロク狭軌のちょうど倍になります。)

 この広軌はイギリス国内の軌間共通化を優先するため19世紀終盤には全て標準軌の1435mmに狭められてしまうのですが、広軌時代の19世紀半ばには既に時速80マイル(133km/h)程度の走行を可能にしていたといいその先進性に驚くばかりです。

 そんな特異な歴史を持つグレートウェスタン鉄道も第二次世界大戦後の国有化で国鉄の一部になってしまい、後の民営化で名前は「グレートウェスタン」がまた使われるようになり今に至っています。このグレートウエスタン鉄道の歴史を主に展示しているのがこの博物館というわけ。

 広い館内で最大の目玉は左の画像。ブルネル像の後ろにレプリカ(一部実物の部品も使用)の初期広軌蒸気機関車「North Star」が控えています。そのどっしりした存在感、悪く言えばガニマタっぽさには何とも言えない迫力があり、こんなものが発展して蒸機からディーゼルあるいは電車の時代に突入していたら一体どんな面白いものが登場していたやら、全くもって惜しいと思うばかり。

 ところで、この博物館は車両などのモノや運行面関係の展示のみならず工場や事務方など裏方についての展示も充実しています。また人形が数多く置かれ鉄道で働く人々の様子を想像できるような工夫が感じられました。そういうところは鉄道の町の博物館だからでしょうか。当然と言うべきか男性の人形が多いのですが、そんな中戦時下の男性労働力不足から動員された女性労働者のものが印象的です。

 流線型の気動車は1934年製とのこと。両運転台の車両ながら車内を覗くとながら軽食や飲み物を用意するカウンターもついていて優雅な雰囲気です。

 キリがないのでこのくらいで終わりにします、というとただボリュームがあるだけのような字面になってしまいますが、そうではなく各コーナーのテーマがハッキリしていて説明も多く観覧しやすい上にボリュームもあるという博物館なので好印象を持ちました。(2011年訪問)

(※)蛇足ながら、ロンドン〜スウィンドン間のDidcotにやはりグレートウェスタン鉄道をしのべる施設Didcot Railway Centre(公式サイト)があります。都合がよい場合は併せて訪問するのも悪くないかも。


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