ワイト島の電車


 イギリス南部に浮かぶワイト島(Isle of Wight)に第三軌条式で電化されている路線(Island Line Trains)があり、ここに古い電車が走っているというので乗りに行くことにしました。


★海上の駅

 イギリス本土からワイト島へのフェリー「Wight Link」は南海岸の港町ポーツマス(Portsmouth)から出ています。ロンドンやブリストルなどからの列車が着く行き止まりのポーツマス港駅(Portsmouth Harbour)はフェリー乗り場が隣接し両者をすぐに乗り継ぐことができる構造です。このフェリーに乗り22分で着くワイト島のRydeというところがお目当ての電車が出ているところなのですが、ここがちょっと変わっています。

 Rydeの海岸線は水深が浅いため、船着場は陸地から681mも伸びる長い桟橋の先です。電車はこの桟橋を走って船着場に隣接するRyde Pier Head駅まで足を伸ばしフェリーとすぐに乗り換えができるようになっています。なので船着場と駅は陸地から遠い海上ということになるわけです。Island Line Trainsはこの海上駅からワイト島東部を南に向かったShanklinというところまでの約13kmを結んでいます。

 最初の画像が件のRyde Pier Head駅です。電車は1938年メトロキャメル製の元ロンドン地下鉄Class483で2両編成を組んでいます。

 陸地へと伸びる桟橋を見てみます。並走する道路側の線路しか使われておらず、使われていない側の線路は真っ赤に錆びていました。広々とした海の上を元地下鉄の小さい第三軌条式電車が走る図というのは不思議で面白い光景です。そういえばイギリスで見られる片側に3つついてる前照灯の配置も見慣れないので変わっている感じがします。


 車内に入るとかなり改装されていますが木製の部品も多く暖かい雰囲気でした。車体中央部にはクロスシートが並び車端部はロングシートという座席配置です。車掌さんは連結妻面にある操作盤で扉を扱いつつ車内を歩き回って切符を売らなければならないのでなかなか大変そうでした。(切符はイギリス本土の一般列車と同様の体裁のもので端末での発行)


 扉は車端部の片開きと中央の両開きの混合で、各扉ごとにスイッチがあり乗降するお客が自分で開閉する方式です。ロンドンの地下鉄で連呼されていることで有名な「Mind the gap!」という言葉はここワイト島の駅ホームにも大きく書かれています。これだけ段差があって開閉ボタンに気をとられたらつまづきやすそうですね。なお連結面の扉に幌はなく乗客は通行禁止で車掌さんのみ通行できます。


 あっさりした雰囲気の運転室は狭くやや窮屈そうです。運転士さんに最高速度を聞いたところ45マイル・約72km/hとのことでした。


★腕木信号機と車庫

 海上のRyde Pier Head駅から2駅目のRyde St. Johns Roadに車庫があります。ここで運転士さんの交代もあるのですが運転室の扉は車体上部の弧の部分まで伸びていないため窮屈そうです。赤いこともあって今はなき名鉄パノラマカーの運転室出入りシーンをちょっと思い出しました。

 Ryde St. Johns Road駅の南側は腕木信号機によって守られています。南行の出発信号機、北行のこの駅到着前の遠方信号機と場内信号機が腕木でした。集電用の第三軌条が加わる複雑なレールに腕木と信号扱所、そして70歳を越える元ロンドン地下鉄の古い電車とは実に面白い組み合わせです。

 

 南行の列車はこの駅を出ると次の停車駅Bradingまで5km以上あるのでスピードを増し、あまり建物も見えないような牧歌的な風景の中釣り掛けの唸りと頻繁なジョイント音が一緒になった素晴らしい乗り味を楽しめました。最高速度72km/hというのは数字だと大したことないような気がしますが、古いのみならず地下鉄用ともなればおそらく高速域はあまり重視されていないでしょうからその分迫力が出ているのかもしれません。

 Ryde St. Johns Road・Brading間には保存鉄道「ワイト島蒸気鉄道・Isle of Wight Steam Railway」との接続駅Smallbrllk Junction駅がありますが多くの列車は通過します。


★Shanklin駅

 北端のRyde Pier Headから25分弱で南端のShanklin駅です。棒線1本だけのローカル終着駅に架線がないと一瞬非電化路線に見えます。大都会ロンドンの地下から来たこの車両も海上の駅に始まり町に田舎にと変化に富んだ路線で老後をおくることになるとはさぞやびっくりだろうなあとしみじみ思ってしまいました。

 かわいらしい駅舎を出るとバス停があり、ワイト島の中心Newportに向かう3番のバスがここを経由しています。これに乗って2階最前列に陣取ると茅葺屋根の建物に旧市街、牧場に海とのんびりした風景が次々と続く気持ちのいい乗りバスができました。


(2011年訪問)


景色は乗った後に(表紙)イギリスもくじ>このページ

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