ウクライナの長大ナローゲージ(前編)週2往復の定期列車


 ウクライナに130kmに及ぶ長いナローゲージの路線があるというので乗ってみることにしました。この路線は首都キエフと黒海沿岸のオデッサを結ぶ列車が通るルドヌィツャ(Rudnytsia)駅から東に向かい、やはりキエフとオデッサを結ぶ高速道路と交差してホロヴァ二ヴシク(Holovanivsk)というところまでのびています。ただルドヌィツャからホロヴァ二ヴシクまで直通する列車はありません。列車の運行は途中のハイヴォロン(Haivoron)で分断されています。そこでまずハイヴォロンに行き東側から乗り始めることとしました。


 ハイヴォロンはウクライナ中部のキロヴォフラード(Kirovohrad)州西端にあり、黒海へと流れる南ブーフ川(Pivdennyi Buh)沿いに町が広がっています。朝のハイヴォロン駅に行くとキレイな駅舎が出迎えてくれました。ここには東西にのびる750mm軌間のナローゲージに加えヴィーンヌィツャ(Vinnytsia)方面から1520mm軌間(旧ソ連圏の標準軌)の路線が北側から乗り入れているので構内では2つの軌間とそれぞれの車両が見られなかなか面白い雰囲気です。


 がらんとしていた構内にはこれから乗るホロヴァ二ヴシク行きの列車がたった1両の客車とディーゼル機関車で登場し、さらに広軌の貨物列車が組成され、客車3両を連ねたルドヌィツャからの列車も到着してにぎやかになります。

 訪問時のこのナローゲージのダイヤを見ると西側のルドヌィツャ〜ハイヴォロンは毎日運行する列車が1日1往復と火・金・日のみ運行する列車が運行日に1日1往復、東側のハイヴォロン〜ホロヴァ二ヴシクは毎日運行する列車はなく金・日のみ運行の列車が運行日に1日1往復するのみです。つまり東側は週に2往復しか乗れる列車がないということになります。車両は箱型のディーゼル機関車は旧ソ連製の電気式TU2、客車はポーランドのPafawag製の1950〜60年代製とそれなりに年季の入ったものです。


 発車時刻になるとタブレットのキャリアと同様の「輪っか」が登場したのでびっくりしました。このナローゲージは非自動閉塞というわけです。トークンは「タマ」のタブレットではなく棒状のものでウルグアイチリ以来久々に見ました。この手の機器は日本だと「お稲荷さん」なんて言われたりチリでもそうだったように赤いものというイメージがありますが後で駅に行って見せてもらったところ赤くはありませんでした。

 2+1のボックスシートが並ぶかわいらしい車内は網棚がなくすっきりしています。では荷物はどうするかというと座席の座面がフタになっていて開けるとお尻の下に荷物が入れられるというしくみです。


 発車すると機関車工場を経て町の中心部を抜けほどなく閑散とした車窓になります。広軌も続いていて四線軌条になったり分かれたりと複雑に絡む様子が見られました。


 そのうちに踏切があると思ったら「輪っか」を持った人が立っているのが見え、停車せずに運転室から輪っかが投げ落とされ新たに輪っかが渡され、と器用に通過授受が行なわれるのでびっくりです。受器や授器、タブレットキャッチャーのようなものは特に使われていませんでした。低速にしても通過授受を見たのはチリ以来でこれまた久々です。


 やがて広軌は草に埋もれていつの間にか並走しなくなりか細い単線を淡々と走って行きます。タウジュニャ(Tauzhnya)駅のホームには現役の井戸があり便乗していた保線の方が水を汲みに行くのでくっついて降りてみました。ただの井戸ではあるものの釣瓶やポンプではなくハンドルで巻き上げるものなのはちょっと面白く汲んだ水に触らせてもらったりすると気分転換になります。


 ところどころ手動の踏切もあり、機関助士らしき方が降りて線路側を閉めていた遮断機を90度回転させ道路を止め、列車が通過したらまた線路側に戻しとなかなか大変です。

 という具合にのんびりしつつもあれこれ見ものがあってへえと思っているとハイヴォロンから2時間36分経ち終点のホロヴァ二ヴシクに着きました。ここから先は広軌の路線が続いていて旅客列車はナロー側と同様に週に2往復あり上下とも接続しています。車体は大きいもののディーゼル機関車1両と客車1両という短編成なのは同じで両者が並ぶ姿はちょっと面白く感じました。乗り継いで行くのも面白そうですが今回は旅程の都合でここでとんぼ返りすることとします。


 乗客は少なく静かな辺りを見回すとでっかいクレーンとお乳の張った牛が一緒に見えなんだか妙な雰囲気です。1本バッファーのリンク式連結器を解結する機回しが終わって列車は折り返しの準備が整います。教会が見える駅前に出ると小さな売店が開いていたので揚げパンを買いかじりながらハイヴォロンに戻りました。

 長くなったのでここまでで前編とします。ハイヴォロンから西のルドヌィツャまでの区間に乗った話は後編としますので続けてお付き合い下さい。


後編に続きます。


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